みかん小説
本棚

"名前を消された入園届" 第16話

だが、堵はくは続かなかった。

を過ぎた頃から、私の体調にらかな異変が現れ始めた。 最初は、首筋の微かな悪寒だった。 ストーブの気のせいかとっていたが、が経つにつれて、ガタガタと歯の根がわないほどの寒気が全を駆け巡り始めた。

そして、の胸の奥に、焼けた鉄の棒を突き刺されたような、激しい痛みがした。

「……っ……」

座布団のにうずくまり、胸を押さえた。 皮膚のからでも分かるほど、胸の部が岩のようにく腫れがっていた。を持ち、が擦れるだけでも脂汗がるほどの激痛。

? どうした」

父が異変に気づき、膝をついた。

「胸が……痛くて……が……」

息をするだけで、肋骨の奥に痛みが響いた。 急性乳腺炎だった。

ここ数の極度のストレス、、そして何より、団を追いされてから昨夜にかけて、陽菜にまともに母乳を吸わせるが取れず、分泌が滞っていたのだ。 極限まで張り詰めていた私の肉体が、法な防御を終えた瞬に、限界を迎えて鳴をげていた。

父が私の額にを当てた。 「いな」 その言で、自分が異常な状態にあることが分かった。

体温計の子音が、ピピピと鳴る。 表示された数字は、分。

界がぐにゃりと歪み、井の目がに見えた。 陽菜が私の顔を覗き込み、たくなった私の頬に、さなのひらをペタペタと当てて「ママ、ママ」

広告

と泣きそうな声をげている。

「救急にくぞ」

父は迷わず言った。

曜の夜だ。駅の医師会初期急患診療所がいとる。抗剤の点滴を打たせにゃ、曜の朝まで持たん」

「でも……陽菜が……」

「俺が抱いてる。に乗れ」

父は陽菜をの毛布でく包むと、私に自分の防寒ジャンパーを着せかけ、肩を抱きかかえるようにして部た。

階段をりる取りが、鉛のようにかった。 りるたびに、胸に激痛がり、界が真っ暗になる。 は夜になってもり止まず、たい沫がを持った私の顔を打った。

軽トラの助席に倒れ込むように乗り込み、私たちは夜のった。 刻は、午を回っていた。

の、プレハブ造りのさな夜急患診療所。 曜の夜ということもあり、待のプラスチックの子には、喘息の発作を起こした老や、した子供を抱えた親が、苦しい沈黙ので点滴を待っていた。

私は処置のベッドに横たえられ、護師のによって腕に点滴の針が刺された。 たい抗剤の液体が、血管を通って体内に入ってくる覚。 解剤の座薬を入れられ、氷枕にを預けると、ようやく激しい悪寒が引き、代わりに全からドッとい汗が噴きしてきた。

処置のカーテンの隙から、待のベンチに座る父の背が見えた。

広告

父は陽菜を膝のに乗せ、コンビニで買った幼児用の麦茶のパックにストローを刺して、しずつませていた。 器用で、ゴツゴツとしたつきだったが、陽菜は度も泣かずに、父の指をぎゅっと握りしめていた。

計の針が、午半を指しただった。

ウィーン。

診療所の入りの自ドアがき、濡れた傘がバサバサと滴を払う乱暴な音が、静かな待に響き渡った。

「おい! 横瀬ってのが運ばれてきてるだろ!」

その声を聞いた瞬、私の臓が凍りついた。

康平だった。

点滴スタンドのから、私は息を殺して待を見た。 自ドアのっていたのは、全ずぶ濡れの康平と、そのろで派なヒョウ柄の傘を持った志織だった。

康平のネクタイは引きちぎられたように歪み、スーツの膝にはがついていた。 目は血り、異様な興奮状態で待の受付カウンターに詰め寄っていた。

「おい、聞いてんのか! 俺は夫だぞ! 妻と子供を連れ戻しに来たんだ!」

受付の事務員が、怯えたようにずさりした。 「あ、あの……ここは急患の診療所でして、患者様の個報についてはお答えでき……」

「ふざけんな! 軽トラが表に止まってただろうが!」

志織が横から甲い声を張りげた。

さん! てきなよ! 仮病使って逃げてんじゃないわよ! 子供を盾にしてお兄ちゃんを脅すなんて、母親のにも置けない女ね!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: