みかん小説
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"名前を消された入園届" 第4話

寒さで震えていた陽菜の呼吸が、温かさに触れて、しずつ穏やかな寝息へと変わっていく。

軽トラが、ガタガタと振しながらバックし、団の駐た。 バックミラーの端に、4階の廊さく映っていた。 志織が、すりに寄りかかって煙を吸っていた。その赤いが、暗たく点滅していた。

内には、ヒーターのうなり音と、ワイパーの軋む音だけが流れていた。 父はを向いたまま、ハンドルをく握りしめている。 「どうしてこんなことになった」とも、「だから言っただろう」とも言わなかった。その沈黙が、逆に私の胸を鋭く締め付けた。

信号待ちで、が国で静かに止まった。 内の乾燥した空気が、私のひび割れた唇を刺激する。 私は、元に目を落とした。 助席の元スペースには、荷台に乗せきれなかった、あのの「お昼寝布団バッグ」が押し込まれていた。 し汚れたナイロン製のバッグ。

ふと、腔を突く匂いがあった。 内の械油の匂いでも、父の煙の残りでもない。 もっと、で、の芯が痛くなるような、ひどく甘ったるいり。

桃の、っぽい柔剤の匂いだった。

私は眉をひそめた。 私は、陽菜のアトピーを配して、柔剤の類は切使っていなかった。洗剤も、無料のベビー用けん洗剤を、ドラッグストアで慎に選んで使っていたはずだ。

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それなのに、元の布団バッグからは、部に充満するほど烈な、桃の料の匂いがち込めている。

が、胸の奥で黒い染みのように広がった。 私は膝のの陽菜を片腕で支えながら、屈み込み、のバッグのファスナーにをかけた。

ジジジ……と、鈍い音をててファスナーがく。 には、私がで揃えた、柄のお昼寝布団セットが入っているはずだった。 敷布団、掛布団、そして専用の枕。

バッグの隙に指を差し入れ、を引きそうとした瞬、私の指先が奇妙な触を捉えた。

の表面に、何か、く尖ったものが当たった。 私は掛布団をしだけ引っ張りし、灯の暗いにかざした。

息が止まった。

布団の隅。 保育園の指定で、私が夜なべをして、針と糸で方を丁寧に縫い付けたはずの、いゼッケン布。 そこには、黒の油性ペンで、私の几帳面な字でこうかれていたはずだった。

『よこせ ひな』

だが、その所にあったのは、無残に引き裂かれた布の残骸だった。 ゼッケンは、カッターナイフのような鋭利な刃物で、周囲の糸ごと引に削ぎ落とされていた。 布団の側まで刃先が達したのか、ポリエステルの綿が、切りからボロボロと毛羽ってしている。

そして、その削り取られた跡のすぐ脇。

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布団の布に直接、太い黒マジックで、乱暴に、殴りきされた文字があった。

見覚えのある、丸っこくて品なフォント。 志織の跡だった。

そこにかれていた名は、私の娘の名ではなかった。

『たかぎ れんと』

志織の、息子の名だった。

指先が、ガタガタと音をてて震え始めた。 が分からなかった。 なぜ、私が買った陽菜のお昼寝布団に、志織の息子の名かれているのか。 なぜ、ゼッケンが切り裂かれているのか。

私は狂ったように、バッグの奥へを突っ込んだ。 敷布団のカバーも同じだった。陽菜の名を縫い付けたワッペンが剥ぎ取られ、マジックで黒々と塗りつぶされていた。 さらに、バッグの底から、コロンと何かが転がりしてきた。

それは、見慣れないだった。 濃いグレーの、毛玉だらけのフリースパンツ。サイズは95センチ。 陽菜はまだ80センチを着ている。 95センチは、2歳になる志織の息子のサイズだ。

しかも、そのズボンのタグには、すでに保育園の組名スタンプが押されていた。

『たんぽぽ組』

から、陽菜が入園するはずだった、あの認保育園の、1歳児クラスの名称だった。

喉の奥がカラカラに乾き、息が吸えなくなった。 これは、ただの嫌がらせではない。 荷物を違えて詰めたのでもない。

々から、周到に準備されていたのだ。

私の娘の入園枠を、私の娘の準備した布団を、そのまま横滑りさせて、誰か別の子供に使わせるための準備が。

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