"名前を消された入園届" 第3話
え切ったさなが、私の首筋に触れる。氷のようにたかった。 このままここにいれば、陽菜が肺炎を起こす。 私には、もう見栄を張っている余裕など、1ミリも残されていなかった。
親指を、画面に押し当てた。
プルルル……プルルル……。
呼びし音が、静まり返った団の階段に響く。 頼むからて。お願いだから切らないで。 3回目の呼びし音が途切れた。
『…………』
無言だった。 しかし、受話器の向こうから、く、擦れたような呼吸の音が聞こえた。、砕のを吸い込み続けてきた、父特の、浅く濁った呼吸音。
「……お父さん」
声が震えて、掠れた。
「お父さん、助けて……陽菜が……子供が、凍えちゃう……」
喉の奥から嗚咽がせりがり、言葉が続かなかった。 たいコンクリートのに、私の涙がポタポタと黒い染みを作っていく。 話の向こうで、数秒の、鉛のようにい沈黙があった。
そして、く乾いた声が、受話器から落ちてきた。
『……どこだ』
りも、責める響きもなかった。ただ、線の亀裂を確認すると同じ、確認のための声だった。
「みずほ台の……県営団。4号棟の……階段のところ」
『子供をに当てるな。くな。15分だ』
ツーツー、と無質な切断音が鳴った。 通話は、わずか30秒で終わった。
私はスマートフォンの画面を消し、胸の陽菜をダウンジャケットの内側に抱き込むようにして、体を丸めた。
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ふと、背が気になり、踊りのさな換気窓から見げた。
4階の、403号。 キッチンのすりガラス越しに、部のかりが漏れていた。 カーテンの隙から、ふたつのが見ろしていた。
康平と、志織だった。 志織は缶チューハイを傾けながら、何かを言って笑っていた。康平もまた、窓枠にをかけ、ら笑いを浮かべてこちらを見ている。 く当てのない私が、泣きついてドアを叩くのを待っているのだろう。 自分たちの元に平伏し、何を言われても従う奴隷に戻るのを、みの見物と洒落込んでいるのだ。
彼らの目には、私というへのも、自分たちの血を分けた陽菜への配慮も、最初からしていなかった。 ただ、邪魔な障害物をに排除したという、底の浅い達成だけが透けて見えた。
15分。 夕が完全に団を包み込んだ頃、静まり返った団の周に、バタバタと頼りないエンジン音が響いてきた。 現れたのは、磨きげられた級などではない。 フロントバンパーの角が擦れ、荷台のあちこちに錆が浮いた、式の古いの軽トラックだった。ダイハツのハイゼット。父が退職の部で買った、ボロい作業だった。
軽トラは、団のごみ集積所の脇に、ブレーキ音を軋ませてまった。 運転席のドアがき、作業着のに褪せた防寒ジャンパーを羽織った男がりてきた。
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髪が混じり、針のようにく刈り込んだ髪。の古傷のせいで、わずかにを引きずっている。 父、誠だった。
父は、階段の踊りにしゃがみ込む私と、散らばった荷物を瞥した。 3ぶりの再会だった。 私にかける言葉を探す素振りすら見せず、父は股で階段をがってくると、コンクリートのに転がっていた破けたレジ袋と、のお昼寝布団バッグを、太く節くれだった両でひっ掴んだ。
「……乗れ」
父はそれだけ言うと、荷物を抱えて軽トラの荷台へと戻っていった。 荷台のアオリを倒し、荷物を放り込むと、慣れた作で汚れたブルーシートを被せ、ゴムロープでく固定する。 私は、痺れたを引きずるようにして、助席へ向かった。
ドアをけると、内には、使い込まれた械油と、缶コーヒーの微かな匂い、そして埃っぽいヒーターの気が充満していた。 シートにく腰をろすと、父が運転席側から乗り込んできた。 父は何も言わず、運転席のろの隙から、畳まれたの毛布を無造作に引っ張りすと、私の膝のに放り投げた。
「子供に巻け」
「……ありがとう、お父さん」
声がかすれた。 毛布は、自隊の払いげ品のような、ごわごわとした濃いオリーブだった。お世辞にも肌触りが良いとは言えない。けれど、その武骨な布からは、確かな体温のような温もりがちがってきた。
私は毛布を広げ、胸元の陽菜をすっぽりと包み込んだ。