"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第16話
でも、言葉がなかった。
「あなたはいつも、のため、会社のため、私のためと言いました。でも本当は、自分が責められないためだったんですね」
夫のが袖に伸びた。
けれど、そこにはもうえる余裕のある布はなかった。
何度も触られて、シワになった袖があるだけだった。
司会者がようやくき、私ののマイクをげた。
音響スタッフが慌てて音楽を流そうとしたが、選曲を違えたのか、やけにるいジャズがさく流れてすぐ止まった。
その抜けな数秒、誰も笑わなかった。
パーティーは断された。
完全な止ではなく、「歓談に切り替える」という形になった。
たちは、破綻にすら名をつけて綺麗にえるのだ。
控えに移すると、夫、貴子さん、さや、私のだけになった。
最初にをいたのは、貴子さんだった。
「玲、説なさい」
夫はネクタイを乱暴に緩めた。
「説も何も、仕事だよ。さんとはブランド企画の打ちわせで」
「なぜ美緒さんに黙っていたの?」
「余計な誤解をするとったから」
「なぜ港で置いてったの?」
「美緒が静じゃなかった」
私は黙って聞いていた。
夫は弁解を続けた。
「でもずっと嫌が悪かった。せっかく母が用してくれた旅なのに、楽しむ努力もしない。俺だって限界だった」
それを聞いた、胸の奥がし痛んだ。
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確かに、私は楽しむ努力をしなかった。
疑いを抱えたまま、黙って嫌を部に置き続けた。
完璧な被害者ではない。
玲だけが方に悪いと簡単に言い切れるほど、私は綺麗ではなかった。
「でも」
私がをくと、全員の線が集まった。
「私が嫌だったことと、あなたが私を置いて帰ったことは、同じさですか?」
夫は答えられなかった。
さやが、さく言った。
「森崎常務。私は、奥様が承していると聞いていました。もに別で流すると」
貴子さんの目が、鋭く夫に向いた。
「玲」
夫は苛ったように髪をかきげた。
「そうでも言わなきゃ、仕事がまなかったんだよ」
その瞬、貴子さんの顔が完全に変わった。
息子を庇う母の顔ではなく、会社の損失を酷に計算する経営者の顔だった。
「仕事がまないから、妻の承を捏造したの?」
「捏造って言い方は」
「では、何と言えばいいの?」
夫は初めて、母ので言葉に詰まった。
さやはバッグから茶い封筒を取りした。
「私からも、会社に報告します。業務の同だと信じていましたが、奥様の承がない以、提が違います。さようなら」
「さや」
「名で呼ばないでください」
静かな声だった。
その言が、夫を番傷つけたように見えた。
夫は私を見た。
「美緒、頼む」
すがるような目だった。
「戻ってきてくれ」
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初めてだった。
言葉だけなら、私がずっと欲しかった言葉だったかもしれない。
港で置いてかれた朝、ので卵サンドをべた昼、母のの階で泣いた夜。
そのどこかでこの言葉を聞いていたら、私はきっと揺れたとう。
でも今、その言葉のにある彼の本音が見えていた。
戻ってきてくれ。
僕のを戻してくれ。
僕の話をえてくれ。
僕を恥ずかしくない男に戻してくれ。
私は返事をしなかった。
控えの計の秒針が、やけにきく聞こえた。
貴子さんがく息を吐いた。
「美緒さん、今はもう帰りなさい。こちらで対応します」
「はい」
「、改めて話をしましょう」
「わかりました」
夫が歩づいた。
「美緒」
私は振り返った。
「港で、私のスーツケースを置いたでしょう」
夫の顔が張った。
「あの、あなたは私が追いかけてくるとっていたんだといます」
「違う」
「でも、私はチケットを取り直しました」
い沈黙。
「それだけです」
私は控えをた。
ホテルの裏に向かう廊は、表の華やかな宴会とは違って静かだった。
スタッフが台を押して通り過ぎる。
の蓋がかかった料理が揺れ、属のさな音をてた。
にると、夜がたかった。
ナナさんが裏まで追いかけてきた。
「丈夫?」
「分」
「分が番正直ね」
ナナさんは、さな袋を私に差しした。
「さっきの引き物。持って帰りなさい」
「は?」
「分、タオルと焼き菓子」
私は袋を受け取った。
「こんなに?」