"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第10話
代わりに、クルーズ旅に撮った写真を枚ずつ見返した。
誰もいないデッキ、夕の豪華な皿、に沈む夕、客のさな丸い窓。
どれも派だが、ほとんどがひどく寂しい写真だった。
楽しいはずの記旅なのに、の気配がい。
そのに、港で撮った最の枚があった。
夫を乗せたいがりった、私はと岸壁と自分のを撮ったつもりだった。
画面を拡する。
画面の端に、いの部座席の窓がしだけ映り込んでいる。
黒いガラスの奥に、女性の横顔らしきぼんやりとしたが映っていた。
さらに拡すると、顔ははっきりしないが、元にるきなパールのイヤリングが見えた。
さやがどんなか、私はまだらない。
翌の昼休み、ナナさんが社内報用の写真データをパソコンで理していた。
画面には、過のホテルイベントの写真が並んでいる。
「これがさん」
ナナさんが画面の隅をさく指差した。
そこに映っていた女性は、夫の隣で華やかに笑っていた。
るいベージュのスーツ、肩につくさの髪、そして元にはきなパールのイヤリング。
港の写真の窓ガラスに映っていたと、全く同じ形だった。
私の息が、急に浅くなった。
ナナさんが慌てて画面を閉じた。
「ごめん。見せるつもりじゃ」
「丈夫」
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丈夫ではなかった。
でも、私はもうこれ以崩れなかった。
そのの夕方、夫が広報部に直接やって来た。
部署の空気が、瞬で凍りついたように固まった。
夫はいつものように清潔なスーツを着て、髪を完璧にえ、誰にでも柔らかく会釈をした。
から見れば、残業する妻を迎えに来た優しい夫そのものに見えただろう。
「美緒、し話せる」
声はあくまで穏やかだった。
私はデスクの引きしをゆっくりと閉めた。
「ここでお願いします」
夫の目が、わずかに細くなった。
「仕事で夫婦の話をするのは、どうかな」
私はちがった。
「夫婦の話を仕事に持ち込んだのは、あなたです」
周囲の社員たちが、息を潜めて静まり返った。
夫は軽く笑った。
困ったような、器のきい男に見えるための計算された笑い方だった。
「みんな配しているんだよ。君が誤解して実に帰ってしまったから」
「誤解」
「港のことだよ。あれは、君を落ち着かせるために度距を置いただけだ」
夫は周囲に聞こえるように言った。
「君の帰りの配は、なんだから自分でできるとった」
私は彼を真っ直ぐに見据えた。
「そのに、あなたは入館カードを止めたんですね」
夫の笑みが、しだけくなった。
広報部が席からちがりかけたが、ナナさんがわざと元の類をに落とした。
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バサッというきな音がして、全員の線が瞬そちらに向いた。
「すみません。が滑りました」
ナナさんの声は妙にるかった。
分、あれは私への助けだった。
夫は私に歩づき、声を極端にくした。
「によう。ここで話すことじゃない、美緒」
私は歩もかなかった。
「私を定だと言ったのも、ここですか?」
夫の喉仏がいた。
「そんな言い方はしていない」
「旅先でになった。のお客様とトラブルになった。は別にした」
私は聞いた言葉をそのままにした。
「そう説したと聞きました」
夫は顔をづけた。
「君のために表現を選んだんだ」
「私のために、私がしていないことを言ったんですか?」
沈黙が落ちた。
夫はたまらず、自分の袖をえ始めた。
何度も、何度も。
広報部の線話が鳴ったが、誰もすぐには取らなかった。
回目で、若い社員が慌てて受話器をげた。
夫は私を見た。
りと焦りを、品な顔の奥に必に押し込めている。
「君は、何がしたいんだ?」
「港で何があったのか、あなたのから説して欲しいだけです」
「だから、説している」
「いの同乗者は誰ですか?」
空気がさらに段とくなった。
夫の顔から完全に笑みが消えた。
「仕事関係者だ」
「さやさんですか?」
部署の誰かが、さく息を呑む音が聞こえた。
夫はすぐには否定しなかった。
その拍の遅れが、広報部全体にく落ちた。
「美緒。こういう所で名をすのは」
「港で妻を置いて、そのに仕事関係者を乗せるのは、どういう所なら説できますか?」