"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第6話
瀬のは、昔ながらの旅パンフレットが窓ガラスいっぱいに並ぶ、さな古い舗だった。
自ドアではなく、で押すタイプのガラス扉だ。
取っを引いてに入ると、カランと古な鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥で、瀬がちがった。
「あ、美緒さん」
彼は昔緒に働いていた頃よりし痩せ、鏡のフレームが細くなっていた。
けれど、を見るにしだけ首を傾ける癖は全く変わっていない。
「急にごめんなさい」
「いえ。コーヒーみます?駅のよりいですけど」
私はさく息をついた。
「じゃあ、いのを」
瀬はの良さそうな笑顔を見せ、コップにコーヒーを注いでくれた。
「旅の配って、本当に性格がるんですよ」
私はコップを受け取った。
「またそれ。本当ですか?」
瀬は真剣な顔で頷いた。
「本当です。の余裕をめに取る、乗り継ぎをギリギリまで詰める、キャンセル規定を全く読まない」
彼はそこで言葉を切り、私を見た。
「玲さんは?」
私が問うと、瀬のがわずかに止まった。
「森崎さんは、余をに押し付けるタイプですね」
その言葉に、私の胸の奥で何かがかすかに鳴った。
瀬は自分のパソコンのモニターを回転させ、こちらに向けた。
「個報に触れる部分は伏せてあります。それでも、変更履歴だけは見えます」
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画面には、無質な予約データが並んでいた。
「クルーズ自体の予約は森崎の秘経由です。ただ、の両配が、旅の目の夜に変更されています」
瀬は指先で画面の部を指した。
「両配。本来は名分、横浜港から森崎まで。変更は、名分。横浜港から都内の料亭まで」
私は画面の文字を凝した。
「その、森崎さんの都内のマンションへ」
瀬はゆっくりと頷いた。
「名義は森崎さん。そして備考欄に、『同乗者あり』とだけ」
同乗者。
港で夫を迎えに来た、黒い窓のが脳裏に浮かんだ。
「誰かは分からない」
私が呟くと、瀬も同した。
「そこまではこちらで触れられる範囲じゃないです。ただ、変更した刻が気になって」
私は画面の付と刻を見た。
目の夜、分。
それは違いなく、さやの名が夫のスマートフォンに表示された直のだった。
私はコップを持つに、無識に力を入れた。
いコーヒーがコップのでし揺れた。
「美緒さん」
瀬の声が、先ほどよりも柔らかくなった。
「これ、どう使うつもりですか?」
私は顔をげた。
「まだ分からない」
本当に分からなかった。
夫の会社に鳴り込みたいのか、このまま逃げたいのか、それともただ泣きたいのか、自分でも決められなかった。
ただつだけ、確かなことがあった。
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夫は私を港に置きりにしただけではない。
私がらない所で、最初から私の席を消していたのだ。
瀬はカウンターの引きしから、茶い封筒をした。
「のため、でしておきます」
彼はプリントアウトしたを封筒に入れた。
「公式な証にはなりません。でも、系列を見るためには使える」
私はを伸ばした。
「ありがとう」
封筒を受け取ると、指先にのたい角が当たった。
それがしだけ痛かった。
私がをようとすると、瀬が背越しにぽつりと言った。
「美緒さん、帰る所はつじゃないです」
振り返ると、彼はし困ったように笑っていた。
「すみません。旅代理っぽいこと言いました」
私もしだけ微笑んだ。
「旅代理でしょ」
「そうでした」
そのさなやり取りだけで、私はしだけく息ができたような気がした。
をると、商のスピーカーから古い謡曲が流れていた。
夕方の買い物客が増え、惣菜のには主婦たちの列ができている。
私は茶い封筒をバッグの底にしっかりと入れた。
今はスーツケースを引かずに、自分自のだけでしっかりと歩いていることに気づいた。
そのの夜、実の階にいると、夫から話がかかってきた。
今度は通話ボタンを押した。
「今どこにいる?」
第声がそれだった。
「実」
夫はく息を吐いた。
「勝なことをするな」
私は窓のの暗を見つめた。
「港に置いてったがいるのに?」