"姉の代わりに嫁いで6年――総支配人夫人の姉と再会した日" 第1話
譲って正解だったわ
「なんであんたたちがここに? 私の夫、ここの総支配よ」
姉の声が、ロイヤルガーデン京のい井に響いた。ラウンジからてきた瑞穂は、連れの女性たちを待たせ、私の布の鞄から夫の革靴へと線を落とした。
「まだそのと緒だったんだ。こんなホテルに来る余裕、あったの?」
私は持ちを握り直した。には、昨夜までを入れていた客運用の資料が入っている。今は夫の馬と、このホテルの担当者に会いに来た。約束よりく着いたので、ロビーで待とうと正面から入ったところだった。
「仕事で来たの」
「ああ、お掃除の打ちわせ?」
姉が振り返ると、連れの1が曖昧に笑った。フロントの女性がこちらを見たが、姉と目がうと、元の類に線を戻した。
6、26歳だった私にこの縁談を押しつけたのは、父と母だった。社員4の会社に800万円の借入れがあると聞き、姉は相に会ったそのに断った。
父は紹介者への返事に困り、私を呼んだ。
「姉さんが嫌だと言ってる。おが代わりにけ」
母も、断れば父がをげることになると言った。私の返事を待つは、その卓に1もいなかった。
「でも、本当にあんたに譲って正解だったわ」
目のの姉が笑い、私は記憶から引き戻された。の指輪を見せるように、姉は髪をにかけた。
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「うちの、ここでは何でも決められるの。部も事も、私が来るって言えば用してくれるし」
馬は私の隣で黙って聞いていた。紺のジャケットの袖から、使い慣れた腕計がのぞいている。姉が貧乏くさいと言った計を、彼は今も使っていた。
「ねえ、旦さん。まだ旅館のて直しをしてるの?」
「はい。続けています」
「変ねえ。うちのに頼んで、何か仕事を回してもらおうか。内だもの、それくらいはしてあげる」
姉の連れが、そろそろこうと声で促した。姉は気づかないふりをして、今度は私の肩へを伸ばした。
「紗も無理しないで。ここのコーヒー、1杯2000円よ。駅にいおがあるから」
私は半歩退き、肩に触れようとしたを避けた。
「ここで待ちわせをしているから、かない」
姉の指が空で止まった。私が言う通りにかないと、姉はいつも、聞き違えたような顔をする。
「あんたに恥をかかせないように言ってるのに」
馬が鞄を持ち替えた。私の顔を見てから、姉に向き直る。
「ここ、先うちが買収したけど」
姉は彼を見つめ、やがて声をげて笑った。
「買収? このホテルを? ちょっと、そういう冗談やめてよ」
馬は笑わなかった。私は鞄から携帯をし、さんに到着をらせようとした。その、奥の廊からさん本が現れた。
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ホテルの幹部らしい男性が2、ろに続いている。
さんは私たちのでを止めた。
「倉社、お待ちしておりました。フロントからご到着の連絡をいただきました」
続いて、ろの2が姿勢を正した。
「本はありがとうございます。応接の準備がっております」
姉の笑いが途切れた。いたを閉じると、さんと馬の顔を交互に見た。
「社って……この?」
「かりホスピタリティの倉です」
馬が名乗ると、さんはホテル側へ線を向けた。
「先、こちらの運営会社が当社の完全子会社になりました。倉は運営会社の代表も務めています」
姉の連れが、そっと姉かられた。誰も笑っていなかった。私が握り締めていた持ちは、指の形に細くよじれていた。
「敬吾さん、呼んでくるわ。何かの違いよ」
姉が携帯を探し始めた、エレベーターの扉がいた。の名札をつけた敬吾さんがこちらへ急いでくる。
「あなた、聞いて。このたち、おかしなことを」
姉は夫の腕を取った。けれど敬吾さんは、そのを静かにした。
「瑞穂。今、倉社に何を言った?」