"「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届" 第6話
階段の途にいた証
「勝ではないわ。昨、をるに確認したでしょう」
私はスマートフォンをからしした。浩司の鳴り声は、縁側にいた父にも聞こえたらしい。父が腰をげかけたので、私は目で制して、そのまま通話を続けた。
「4にあなたが記入して、署名した婚届よ。証欄も埋まっていた。私が『このままでいいのね』と聞いたら、あなたは『したければせ』と言った」
「あんなもの、本気なわけないだろ。夫婦喧嘩の勢いでいただけだ」
「私は本気かどうかも確かめたわ」
「証拠があるのかよ」
私は418午912分に撮した画像をいた。婚届だけでなく、卓の端に置かれた浩司の腕計と、壁の計まで写っている。あの夜の私は、このがいつか必になると、もう分かっていたのだ。
「写真がある。あなたの署名も、相川さんと畑さんの名も読める状態で保してあるわ」
役所へすにも、私は窓で記載内容を確認してもらった。き損じもなく、本のを確かめた経緯も説できる。20、浩司は私が何もらず、く言えば引きがる女だとっていた。けれど今回は、鳴り声に押されて曖昧にするつもりはなかった。
話の向こうが瞬静まり、すぐに浩司が言い返した。
「あいつらが勝にいたんだ。俺が頼んだんじゃない」
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その、受話のくで物がぶつかる音がした。
「貸して!」
里奈の声だった。浩司が止めるもなく話を奪ったのか、荒い息がづいてくる。
「ママ、私、見てた」
私は膝のに置いていたを握った。
「何を?」
「4の夜。パパが会社のにをかせて、それを持って帰ってきた。私、階段の途にいたの」
里奈は途切れがちな声で話した。浩司が卓に婚届を広げ、「証まで用してやった」と笑ったこと。私が子に座ったまま何も言えず、類を見つめていたこと。怖くなって、自分の部へ戻ったこと。
里奈はを取りに階へりかけ、階段の段目でを止めていたという。相川さんと畑さんの名も、以の会社のバーベキューで聞いたことがあったため覚えていた。浩司がを指で叩くたび、卓のの麦茶が揺れていたことまで話した。
「聞き違いだ。子どもが余計なことを言うな」
くで浩司が鳴った。
「聞き違いじゃない!」
里奈が初めて、父親よりきな声をした。
「パパは『部ならこれくらい断らない』って言ってた。ママにも『俺との縁を切ったら、おの父親との縁も終わるから困るのはおだ』って……私、全部聞いた」
4か、私は階段のに誰もいないとっていた。けれど娘は、私が傷つけられた面を見ながら、何もなかったように翌朝の卓へ座っていたのだ。
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「どうして今まで黙っていたの?」
責めるつもりはなかった。それでも声がし震えた。
「私が言ったら、本当に族が壊れるとったから」
「そう」
私は庭の暗がりを見つめた。蝉の声が止み、網戸の向こうで計の針だけがんでいる。
娘を守るために耐えてきたつもりだった。だが実際には、里奈にも父親のりを避けて黙る癖をにつけさせていたのかもしれない。その事実は、浩司の鳴り声よりく胸に刺さった。
「私も同じだった。私がをやめたら族が壊れるとって、20黙ってきたの」
里奈は何も答えなかった。代わりに、押し殺した泣き声が聞こえた。
「ママ、ごめん。『帰ってこなくていい』なんて言って、ごめんなさい。いつ帰ってくるの?」
私は急いで許すことも、娘を突き放すこともしなかった。
「里奈が謝ったことは聞いた。でも、私はもうあのには帰らない」