"251840円の正月料理を持ち去った義母" 第1話
空になった蔵庫
晦の、19をし回った頃だった。
仕事を終えて帰宅した私は、玄関をけた瞬からの様子がおかしいことに気づいた。毎この期なら、台所から昆布だしや煮物の匂いが漂ってくる。ところが、その夜は蔵庫の作音だけがやけにきく、のにはの気配までくなったような静けさが沈んでいた。
台所へ入ると、妻の由がけ放した蔵庫のにち尽くしていた。野菜も凍も空で、い棚がたい照を反射している。テーブルには、計25万1840円と印字されたい領収と、18分の料理名が細かくき込まれたが残されていた。
「どうしたんだ、これ」
由はすぐには答えなかった。買い物袋を握る指先が赤く荒れ、の持ちがい込んでいる。
「お義母さんが来たの。隆志さんのには麻子さんのご両親や親戚が集まるから、こっちの材を使わせてもらうって」
「全部か?」
由がさくうなずいた。数の子も黒豆も、予約していた蟹も牛も、子ども用の菓子や産まで、7つの保箱に詰めて持っていったという。
料理リストには、糖分を控えている伯父にはの煮物、甲殻類をべられない従妹の子には別の鍋、と注きまで添えられていた。由は3かからしずつ品を予約し、の賞与にもをつけず、自分名義の座から代を払っていた。
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25万1840円は単なる材費ではない。誰も困らない正にしようと積みねた、由のそのものだった。
私はすぐ母へ話をかけた。3回目の呼びし音で久がると、悪びれもしないるい声で言った。
「ああ、材ね。麻子さんのご実に恥をかかせられないでしょう? 向こうは派な方たちなんだから。由さんなら、また用できるわよね」
「あれは由が自分ので買ったものだ」
「男の嫁が正の支度をするのは当たりじゃない。は親戚が18も来るのよ。くだらないことで揉めないでちょうだい」
母はそれだけ言って、方に話を切った。
緊急に必だからと母に鍵を渡したのは私だった。由は渋い顔つせず承してくれたが、その鍵が妻の留守に蔵庫を空にするため使われるとはってもいなかった。いや、おうとしなかったという方が正しい。母なら境界を越えかねないと、のどこかでは分かっていた。
由は私の顔をうかがうように見げたあと、壁に掛けてあったコートへを伸ばした。
「まだいているスーパーを回ってみる。蟹やお刺は無理でも、煮物とお雑煮くらいなら何とかなるから」
ファスナーをげようとする指が震え、何度やってもうまくかみわない。それでも由は泣かなかった。
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りさえにせず、自分が埋めわせなければならないとい込んでいた。
結婚して9、私はその姿を何度見てきただろう。親戚が酒をむかい座敷の隣で、由だけがえた台所にち続けていた。がひび割れても、事を取れなくても、私はあとで礼を言えば済むとっていた。
波をてないことを、族を守ることだと取り違えていたのだ。
私は由のから財布を抜き取り、コートのファスナーをろした。
「買い直さなくていい」
「でも、みんなが来るのよ。お義母さんに何を言われるか……」
「言わせておけばいい。25万円分の材を持っていかれたに、せる御馳なんてない」
私は空の蔵庫を閉め、い扉に映った自分の顔を見た。そこにいたのは、母に逆らえない男ではなかった。なくとも、もうそうであってはいけなかった。
由のたいを両で包み、私は静かに告げた。
「正に族全員でべるカップ麺を、箱だけ買っておいて」
「カップ麺……?」
「ああ。俺は君を、もう母さんの台所にはたせない」