"15冊帳簿の専業主婦" 第11話
文は駆け寄ってきた実の息子のでち止まり、その醜態をたい差しで見ろした。
そして。
パアアアンッ!
静寂を切り裂く乾いた破裂音が、広い宴会に霊した。
歳の母親の平打ちが、歳の息子の頬を、渾の力で張りばしたのだ。 健司の鏡が宙をい、に叩きつけられて々に割れた。
「黙りなさい、恥らずが!」
文の声が、凛と響き渡った。
「自分の見栄のために母親のを盗み、優しい嫁を狂に仕てげ、孫の学費まで奪い取ろうとするなんて……! 親父がきていたら、おを座敷牢に叩き込んで勘当しているところだよ!」
文は懐から、義父の遺言公正証を掲げた。
「こののも建物も、くなったお父さんの遺言により、すべて真由美さんと咲良のものです。健司、おの相続権は、な非と虐待により、本付で完全に廃除されました」
「……あ」
健司の瞳から、最のが消え失せた。
その、会の方でい鳴ががった。 ロビーで待していた融ブローカーの佐伯が、警庁丸の内警察署の能犯捜査係の刑事たちに両脇を固められ、錠をかけられて連されていく姿が見えた。
「浅野健司君」
専務取締役が、徹な声で言い放った。
「コンプライアンス統括部の就任は直ちに取り消す。週けの臨取締役会にて、背任および就業規則違反による懲戒解雇の続きをめる。
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席をしなさい」
健司の「輝かしい未来」は、文字通りと消えた。
プライドも、社会位も、財産もすべて失い、にいつくばった健司は、今度はのようにいながら私の元へと擦り寄ってきた。 涙とにまみれた顔で私のアンサンブルの裾を掴み、狂ったように叫ぶ。
「真由美! 真由美、頼む! 俺が悪かった! やり直そう! おには俺が必だろう!? も連れ添った夫婦じゃないか! もも全部おにやる、だから見捨てないでくれ! クビになったら俺はきていけないんだよ!」
見ろす私の胸を満たしたのは、りでも勝利のでもなかった。
ただ、どこまでもえ切った、底れない空虚だった。
この男のために、私は代の若さを捧げ、代の自由を削り、円単位の特売チラシに目を凝らしてきてきたのだ。 これほどまでに浅ましく、の空っぽな怪物のために。
私は健司の震えるを、元から静かに、だが切の容赦なく蹴り払った。
「さようなら、浅野健司さん」
私は胸元から、本物の実印を押した緑の婚届と、弁護士作成の【慰謝料および損害賠償請求・百万円】を枚、彼のから落とした。
切れが、男の背に力なく落ちる。
「私のに、あなたというはミリたりとも必ありません」
健司は親族の若い男たちに取り押さえられ、惨めに喚き散らしながら、裏の搬入へと引きずりされていった。
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彼に残されたのは、着の着のままのスーツと、破滅したの瓦礫だけだった。
い扉が閉まる音が響いた。 その瞬、私のの鎖が、音をてて完全に断ち切られた。
半。旬の午。
京のを包むの嵐がり、がの庭には、満を迎えた桜のびらが柔らかなを浴びてい落ちていた。
リビングの無垢材のテーブルのには、真しい名刺が置かれている。
『浅野真由美 域庭財務・モラルハラスメント被害相談アドバイザー』
あれから、健司は懲戒解雇され、佐伯らとともに背任と私文偽造で起訴された。退職は差し押さえられ、現は個破産の続きをめながら、方の倉庫で雇いの荷物仕分けをして暮らしているという。 だが、その名を聞いても、今の私のにはさざ波つたない。
「お母さん、ただいま!」
玄関の引き戸が勢いよくき、真しいブレザーの制にを包んだ咲良がび込んできた。 第志望の名都の章が、胸元で誇らしげに輝いている。
「咲良、お帰りなさい。初の授業はどうだった?」
「すごく楽しい! 友達もたくさんできたよ!」
咲良は満面の笑みを浮かべ、鞄をソファに置いた。 その屈託のない笑顔を見つめながら、私は胸の奥に、かつてじたことのない温かくい充が満ちていくのを静かにじていた。
獄のような々だった。 だが、あの試练があったからこそ、私は娘を守り抜き、自分自の尊厳を自らので奪い返すことができたのだ。
窓から、かなのが吹き抜けていく。 リビングを満たすのは、誰かの顔を窺うたい沈黙ではない。
私と咲良が自分たちので歩み始めた、どこまでも澄み渡る、本物ののだった。