"15冊帳簿の専業主婦" 第2話
そののひらの温もりが、今の私には猛毒を帯びた刃物のようにたく皮膚に突き刺さる。
「……ありがとう。気を遣わせちゃってごめんなさい」
「いいんだよ。夫婦なんだから。咲良はまだ塾かい?」
「ええ、今は特別特訓だから、半過ぎになるわ」
「そうか。じゃあ、で先にし事な話をしようか」
健司は微笑みを崩さないまま、リビングの無垢材のテーブルへ歩み寄った。そして、自の本革ブリーフケースから、糊の利いた質なベージュのファイルを冊取りし、私ののテーブルに静かに滑らせた。
表には、均の取れた朝体でこう印刷されていた。
『庭内理健康状態に関する委託評価及び財産包括管理』
「……これ、何?」
私の声がかすかに震えた。健司は向かいの子に腰掛け、両肘をテーブルについて指を組んだ。
「俺の学の同期に、片という司法精神医学の専医がいてね。庭裁判所の鑑定も務めている優秀な男だ。彼に相談したら、の朝半、勤のを割いてうちに来てくれることになった」
「の朝……?」
「ああ。真由美、おは限界なんだよ。先週もヤカンのをかけたままゴミしにきかけただろう? 昨だって、咲良の模試の費用をに振り込もうとしていた。おは『覚えていない』って言うけれど、現実に起きてるんだ。
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鬱病か、期の認症かもしれない。専に客観な評価を作ってもらえば、おも肩の荷がりるだろう? これはおのための救済なんだよ」
健司は胸ポケットから万を取りし、同の横にコトリと置いた。
「ここに署名をして、実印を押してくれ。の診断をスムーズにめるために、本の事の受診同と、万の際の配偶者への財産管理移託の承諾が必なんだ」
私のための救済。 その言葉の裏に潜む悪に、胃の底が激しく痙攣した。
の朝半。 片という医師がここへ来て、健司が用した「異常の観察記録」と「額の借」「盗撮写真」を突きつけ、私を『自己の財産を管理・処分することができない精神の障害をする者』として即座に判定する。
そして、この類に私のサインがあれば、私はにこのでのすべての権利を法に奪われるのだ。
逃げがなかった。ここで取り乱して「私を嵌める気ね!」と叫べば、健司は待ってましたとばかりにその興奮状態を記録し、「やはり妻の精神錯乱は限界だ」と堀を埋めるだろう。
「……ごめんなさい」
私は両で腹部を押さえ、顔を歪めてちがった。
「真由美?」
「胃が……急に、刺すように痛んで。し、お洗いに……」
健司の鏡の奥の瞳が、スッと細められた。観察者の酷ながそこにあった。
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「丈夫かい? 署名をしてから休めばいいだろう」
「ごめんなさい……本当に、今、戻しそうで……!」
私は返事も待たずにダイニングをびし、廊の突き当たりにあるトイレへ駆け込んだ。 ドアをバタンと閉め、真鍮の内鍵を力任せにひねり込む。
カチャリ。
い施錠音が、狭い個に乾かしく響いた。
便座の蓋のに崩れ落ち、私は荒い息を吐きした。額からや汗が顎へと滴り落ちる。 だが、パニックを起こしているはない。私はエプロンのポケットから、先ほどテーブルのから咄嗟に掴み取ってきたを取りした。
狭いトイレの青い蛍灯の、私はその類の束をめくった。 表の同の裏に、複写用のいカーボンが枚挟まれている。
そして、その転写先となっている枚目の類の末尾にさく印字された特約事項を読んだ瞬、私の指先は完全に凍りついた。
『※本に基づき、相方(妻・真由美)のする未成女・咲良に対する親権使および監護権は、申(夫・健司)へ単独委託されるものとする。また、相方実父母の遺産に係る教育信託座(残千百万円)の解約および管理権限は、受託者の利益保護を理由として、直ちに配偶者である申へ全権移譲されるものとする』
千百万円。 くなった私の両親が、咲良の将来のためにと、遺言で遺してくれた掛け替えのない教育資だった。
健司の狙いは、私を追いすことだけではなかった。