"残高220円の介護嫁" 第5話
と言って、親族の集まりがあるたびに恩着せがましく持ち込んできた箱だ。
番の箱の包装を、さらに指先で引き剥がす。
セロハンテープが経劣化で茶く変し、バリバリと乾いた音をてて裂けた。
箱の蓋をける。
に入っていたのは、瓶詰めの健康品などではなかった。
無造作に丸められた古聞。
その聞の隙に、何にも折りたたまれた、分いA4の更の束が押し込まれていた。
番のを引き抜く。
『銭消費貸借契約(極度方式)』。
貸付元には、先ほどの伝票と同じ名が印字されていた。
株式会社都ファイナンス。
そして、借主の欄。
そこには、万の震える跡で、こうかれていた。
借主:松本 静 :昭 連帯保証:松本 健
「……お義母さん?」
私の喉から、掠れた声が漏れた。
借主が、健ではない。
当すでに子活で、自分の名をくことすら覚束なかったはずの、義母の名だった。
契約は、の。
その付を見た瞬、私の脳裏に、あるの記憶が鮮烈に蘇った。
あの、健は珍しく平の昼にこのマンションを訪れたのだ。
『美奈子さん、たまには息抜きに美容院でもってきなよ。俺が半、お袋の面倒を見てるからさ』
普段は介護の伝いなど指本触れない男が、突然見せた親切。
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私はその言葉を真に受け、だけし、駅の売りスーパーで買い物を済ませて戻ってきた。
その、義母はベッドので、荒い息を吐きながら毛布を握りしめていた。
の親指には、赤黒い朱肉の跡が、爪のまでべったりと残っていたのだ。
『どうしたの、お義母さん? にインクがついてるわよ』
そう尋ねた私に、義母はただ、怯えたような目で首を横に振るだけだった。
あの、健は背広の内ポケットを自然に膨らませながら、逃げるように部をてった。
——あれは、これだったのか。
私は震える指で、契約の連帯保証欄の隣に押された印鑑に目を凝らした。
朱肉の印。
丸に『松本』の、古めかしい隷体。
義母が嫁入り具として持参し、タンスの奥に切にしまっていた、実印だった。
健は、認症で判断能力を失いかけていた実の母親のを取り、無理やり類に拇印を押させ、実印を盗みして額の借の主債務者に仕てげていたのだ。
そして、自分は涼しい顔で『連帯保証』に収まる。
なぜか。
主債務者がすれば、債権は相続全員にりかかる。
だが、もし産という担保があれば——。
契約の別特約条項のページをめくった。
そこには、黒々と太い活字で、こう印字されていた。
『本債務の担保として、記産に対し、第順位の根抵当権を設定する』
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所:京都品川区品川丁目**番 番号:**番 権利者:松本 静
このマンションだった。
築、エレベーター付き、品川駅徒歩圏内。
義父が遺し、義母が守り抜いてきた、この唯の財産。
健は、自分の放蕩か、投資の失敗か、あるいはあの派な女への貢ぎのために、母親のを担保に差しし、限度額いっぱいの借をねていたのだ。
そして、義母がんだ今。
健に残されたはつしかない。
このマンションを即座に売却し、千万円の売却益のから千万円の借を括返済して、残りの千万円を懐に入れるか。
あるいは、競売にかけられて全てを失い、公務員の職を追われるか。
だからこその、あの焦燥。
だからこその、あの暴力なち退き求。
「……ふざけないで」
私のから、絞りすような声が漏れた。
雑巾を握りしめていた私のが、くなるほどく握りしめられる。
。
私は何のために、あのたい浴で義母の体を洗い続けてきたのか。
夜に「殺される、誰かにを盗まれる」と泣き叫ぶ義母の背を、何もさすり続けてきたあのは、体何だったのか。
義母のあの怯えは、認症の妄などではなかった。
実の息子が、毎のようにやってきては、印鑑を奪い、類に指を押し付け、神のように自分の命とを削り取っていくことへの、本能な恐怖だったのだ。
そのだった。
ピピピッ、ピピピッ。