"墓前の少女は「娘は生きてる」と言った" 第2話
ところが女は私の混乱など気にも留めず、墓の横に置いていた写真てを見つけると「あ」と声をげた。
そこには、咲が嫁ぐの、所の写真館で撮った私と娘の写真が入っていた。桜のので、咲が私の肩にを置き、で笑っている。焼き増ししたもう枚を咲に持たせたきり、同じ写真がのへ渡ったことはなかった。
「これ、うちにもあるよ」
私は女の顔を見た。
「誰と誰が写っているの?」
「お母さんと、おばあちゃん」
その答えより先に、私は女の目のへ線を奪われていた。そこには米粒よりさな黒いほくろがあり、位置も形も咲とほとんど同じだった。私自の目のにも同じほくろがあり、母方の女にやすいものだと、昔から親戚ので笑い話になっていた。
「あなた……お名は?」
「ゆき」
「ゆきちゃん。ここへは誰と来たの?」
「。、覚えてるから」
女はそう言って、にしていたい野のを墓へ差した。そのは、毎この期になると咲の墓に置かれていたものと同じだった。
私は7、んだ娘に向かってをわせていた。
けれど目のの子どもは、その娘を「お母さん」と呼んでいた。
らない子どものをついていくなど、68歳の女がすることではない。理屈では分かっていたし、途で交番へ寄った方がいいのではないかとも何度も考えた。
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それでも度確かめてしまった以、あの墓へ何もらないまま戻ることだけはできなかった。
「おばあちゃんも連れていってくれる?」
私が尋ねると、ゆきは当たりのように頷き、私のを握った。さなのひらは汗ばんでいて、その温かさがかえって怖かった。私は墓参りの具を呂敷に包み直し、女の子に引かれるまま寺の段をりた。
坂の途で、見覚えのあるろ姿が目に入った。提げ袋をげた男が、垣の切れ目を曲がっていくところだったが、私は震える膝とゆきの取りに気を取られ、そのは誰なのか確かめようともしなかった。になって考えれば、あの背を見逃したことこそ、このの最初の警告だったのだとう。
町を抜けてしばらく歩くと、の匂いが変わった。がづき、古い商の向こうに防波堤が見え始めると、ゆきはますます迷いのない取りになった。魚の脇を抜け、細いへ入り、洗濯物が軒先から揺れる角まで来ると、軒の古い平を指さした。
玄関には子ども用のさなサンダルがもう揃えてあった。障子の向こうから包丁の音がして、醤油と煮物の匂いが漂ってくる。そのどれもがあまりに普通の活の匂いだったからこそ、私は玄関先でち尽くした。
ゆきが引き戸を勢いよくけた。
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「お母さん、おばあちゃん連れてきたよ」
奥から音がした。
「ゆき、勝にちゃ駄目だって、あれほど――」
女の声が途で切れた。
台所からてきた女性は、昔より髪がく、頬も痩せ、に焼けた腕に古いエプロンを巻いていた。それでも、眉尻がしがる癖も、驚いたにを胸元へ置く仕も、私が何千回と見てきた娘そのものだった。
「……咲」
声にしたつもりだったが、喉からたのは息にい音だけだった。から力が抜け、私はがり框へ片をついたまま、もう片方ので娘の腕を掴んだ。細くなった腕のには確かに骨があり、そのを温かい血が流れていた。
んだに、この温度はない。
咲の唇が震えた。
「お母さん……」
7、ので何度も聞いた声だった。姿だけでもいいから帰ってきてほしい、もう度「お母さん」と呼んでほしいと、何度願ったか分からない。それなのに実際にその声を聞いた瞬、私は泣くことも抱き締めることもできず、娘の腕をさないようにするだけで精いっぱいだった。
ところが咲は、私の肩越しにを見た。を素く確認し、顔から血の気を失わせると、私のをほどこうとした。
「帰って」
「咲?」
「お願いだから、帰って。私を見つけないで」
再会して最初に娘から渡されたのは、抱擁でも謝罪でもなく、私を追い返す言葉だった。
なぜ、どうして、今までどこにいたの。喉の奥には質問がほど溜まっていたが、私はつもにできなかった。