"27年目、妻は食卓を捨てた" 第7話
失敗してもいいのよ」
翔太は反射に「仕事で疲れてるんだよ」と言いかけ、途で黙った。
自分が疲れている、母はどうしていたのか。
同じように働いたあと、族5分の料理を作っていたのだ。
彩佳は兄から話を受け取った。
「お母さん……ノート、読んだ」
しばらく沈黙があった。
「そう」
「勝に読んでごめんなさい。でも、読んで初めて分かった。私たちが何も見てなかったこと。本当にごめんなさい」
彩佳は声を詰まらせた。
「私、お母さんのご飯が好きだった。ずっと好きだったのに、度もちゃんと言わなかった」
美子の声がしだけ震えた。
「ありがとう。彩佳が気づいてくれたことは嬉しいわ」
「じゃあ、帰ってきてくれる?」
彩佳は期待しながら尋ねた。
しかし返事は変わらなかった。
「ごめんなさい。私はもう、あのには戻りません」
孝志が再び話を取った。
「本気で族を捨てるつもりなのか」
にした直、自分でも違えたと分かった。
美子は静かに答えた。
「捨てるのではありません。私は自分の残りのまで、誰にも見てもらえない所へ差しすのをやめるだけです」
それからしを置き、続けた。
「私は、族でいたかったんです。ただそれだけでした」
通話が終わったあと、誰も声をさなかった。
卓のには、母が残した古いノートが置かれていた。
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そこにかれた何百回ものさな気遣いが、27遅れで族の目に入っていた。
美子は姉のへく居続けるつもりはなかった。正社員としての勤務が始まり、活の見通しがつと、さな1LDKのアパートを借りた。具は最限でよく、27使っていた器棚もきなダイニングテーブルも持ちさなかった。
しい部へ引っ越した最初の朝、美子は自分のために噌汁を作った。豆腐とわかめだけの簡単なものに、し甘めの卵焼きを添え、自分が好きな梅干しを皿へ置いた。誰の塩分も、体も、帰宅も考えなくていい朝は、驚くほどく来がった。
テーブルへ座り、両をわせた。
「いただきます」
27、族が言わなくなった言葉を、自分のためににした。
んだ噌汁は特別に豪華なものではない。それでも、温かさが喉を通った瞬、美子の目から自然に涙がこぼれた。
しいからではなかった。
ようやく自分のを、自分のために使っていいのだと実したからだった。
施設での仕事も順調だった。常勤になって責任は増えたが、同僚と相談しながら献を考え、利用者の状態によって事の形態を調する仕事にはやりがいがあった。ある齢女性から「あなたの煮物、昔の母のをいす」と言われたは、帰宅してからも胸が温かかった。
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方、松井はしずつ自分たちで活をて直し始めていた。
加代は病院で改めて薬の説を受け、自分用のきなカレンダーへ薬と通院をき込んだ。孝志も母親の病院名と担当医をスマートフォンへ登録し、薬の内容を緒に確認するようになった。
翔太は洗濯の説を読み、休にまとめて洗濯するようになった。最初はいシャツと物を緒に洗って失敗し、アイロンで袖を焦がしたこともあったが、会社へ着ていける程度には自分でえられるようになった。
匠も、腹が減れば誰かが事をしてくれるという考えを捨てた。簡単な噌汁や炒め物なら自分で作り、学へ持っていくおにぎりも握るようになった。
事ができるようになれば、以の暮らしが戻るとっていた。
しかし、そうはならなかった。
同じ卓を囲んでも、以のような温かさはない。
自分たちで作った料理がまずいからではなく、そこに美子がいないからだった。
孝志は夜、でノートを読み返すことが増えた。
《孝志さん、今は仕事で嫌なことがあったみたい。話したくなさそうなので、好きなカレイをす》
そんな文を読むたび、妻が自分の顔を見て料理を変えていたことをった。
自分は反対に、美子がどんな顔をして夕をしていたのか、度も覚えていない。
婚についての話が始まったのは、それからもなくだった。