"27年目、妻は食卓を捨てた" 第6話
孝志はがるように言った。
「母親なら、そのくらいするだろ」
彩佳が顔をげた。
「じゃあ、お父さんは?」
孝志が黙った。
「おばあちゃんの病院の名ってる? 薬の名は? 翔太兄ちゃんが最何に帰ってるかってる? 匠の試験がいつだったかってる? 私がどこで働いてるか、正式な会社名言える?」
つも即答できなかった。
「お母さんだけが族で、お父さんたちはお客さんだったんだよ」
その言葉が、誰より孝志へく響いた。
午、加代の体調がさらに悪化した。
孝志は慌てて所の病院へ連れてこうとしたが、かかりつけ医がどこなのか分からない。結局、症状を説して別の医療関へ相談し、必な診察を受けることになった。
「ご族で、普段んでいる薬を把握されている方はいませんか?」
医師から尋ねられ、孝志はをげるしかなかった。
美子は毎回付き添っていた。
薬局で説を聞き、薬を分けし、み忘れがないようケースへ入れていた。
それなのに加代は、煮物のがしいだけで文句を言っていた。
帰宅した加代は、自分の部で静かに泣いた。
「私、美子さんに何をしてあげたことがあったのかしら」
誰も答えられなかった。
夜になり、孝志は再びノートをいた。
半には族への満もかれていた。
《孝志さんに「俺が稼いでいるから活できる」
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と言われた。パート代は計に入れているけれど、あれはおとはわれていないらしい》
《卓で誰とも目がわなくなった。し寂しい》
《私は族の役にちたい。でも、役につことと、使われることは違う気がする》
最の言葉を読んだ、孝志の指が止まった。
今まで美子が何をじているかなど、度も尋ねたことがなかった。
妻が満を言わないのは満しているからだとっていた。
違った。
言っても届かないと諦めただけだったのだ。
美子がをて5目の夜、孝志はとうとう話をかけた。これまで送った圧なメッセージはすべて削除したかったが、相側の画面から消えるわけではない。カードを止めたことも、「座して帰れば許す」といたことも、今になってみれば自分でも信じられないほど傲だった。
何度目かの呼びし音のあと、通話がつながった。
「はい」
美子の声は静かだった。
「美子……今どこにいる?」
「姉のです」
「無事なのか?」
「ええ」
孝志はそれだけでしし、同に怖くなった。鳴られる方がまだ楽だったかもしれない。美子の声にはりもしみもなく、く暮らした夫へ向けるそのものがれているように聞こえた。
「悪かった。俺が違ってた」
孝志は言った。
「のがめちゃくちゃなんだ。
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洗濯も飯も何もできない。母さんも薬が分からなくて体調崩して……俺たち、おがいないと駄目だ」
話の向こうで、美子は黙った。
その、加代が横から声をげた。
「美子さん、私も悪かったわ。煮物のがいなんて言ってごめんなさい。だから、事のことくらいでげさにしないで、もう帰ってきてちょうだい」
孝志はわず振り返った。
事のことくらい。
今の美子へ、最も言ってはいけない言葉だった。
「母さん、それは――」
「まだそんなことを言っているんですね」
美子の声が聞こえた。
たくはない。
むしろ疲れていた。
「私は事を作るのが嫌になってをたんじゃありません。27、族として暮らしているつもりだったのに、気づいたら私は便利な政婦みたいになっていました」
孝志は言葉を失った。
「誰も私を見ない。何を作っても、いただきますもない。仕事から帰って料理をしても、パートは仕事じゃないと言われる。私が体調を崩しても、『夕飯はどうする』と聞かれる。そういう毎を、もう続けられなくなったんです」
「これからは変える。ちゃんと謝する」
「それは、私が戻るためじゃなく、ご自分たちのために変えてください」
孝志は唇を噛んだ。
翔太が話を代わった。
「母さん、俺も悪かった。でも本当に困ってるんだ。洗濯だってよく分からないし、弁当もないし……」
「翔太」
美子は優しい声で遮った。
「あなた、もう26歳でしょう。洗濯もお弁当も自分でやってみなさい。