"27年目、妻は食卓を捨てた" 第2話
噌汁の汁のりも、ご飯が炊ける匂いもなく、のは休の朝のように静まり返っている。計を見た孝志は眉をひそめ、布団のから声をした。
「おい、美子。何だとってるんだ」
返事はなかった。いつもなら寝坊しても5半には起き、族の朝と弁当の準備を始めている妻が、声をかけても階段をがってこない。孝志は面倒そうに起きがり、パジャマのまま台所へ向かった。
炊飯器のランプは消え、は空だった。鍋もていなければ、卓には箸すら並んでいない。代わりに央へ枚のメモが置かれており、孝志は眠そうな目でそれを拾った。
《今から、自分のことは自分でお願いします》
「何だ、これ」
で笑い、をテーブルへ放り投げた。昨夜、誰も事に反応しなかったことへ腹をて、しを空けているだけだとったからだ。50代半ばになった妻が、調理補助のパート代だけで本当にをられるとは考えもしなかった。
そこへ杖をついた加代がやって来た。「美子さんはどうしたの。お茶がまだなんだけど」と言い、メモを見ると呆れたようにため息をついた。嫁がをた理由より、自分の朝のお茶が用されていないことの方がらしかった。
ほどなく翔太がりてきて、「母さん、俺の弁当は?」と尋ねた。孝志が「今はない」
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と答えると、翔太は舌打ちをしてコンビニで買うと言い、彩佳と匠も母親の方を配するより先に、それぞれ朝代や洗濯のことをにした。
族の誰として、美子が本当に戻らない能性を考えていなかった。
孝志は仕方なく勤の準備を始めたが、洗面所へって初めて、着る予定だったワイシャツが用されていないことに気づいた。普段は曜ごとにや組みわせまで考えてアイロンをかけたシャツが掛かっているのに、クローゼットにはしわの目つ古い枚しか残っていない。
「洗濯くらいしていけよ」
誰もいない寝で吐き捨てるように言った。
方、加代は朝より刻な問題に直面していた。毎にむ薬が分けのケースへ補充されておらず、どの薬を何錠めばいいのか自分では分からなかったのである。診察の予定も美子任せだったため、次回の通院さえ覚えていなかった。
「孝志、私のお薬どこからない?」
「るわけないだろ。母さんの薬なんだから自分で管理しろよ」
言われた加代は満そうな顔をしたが、それ以答えられなかった。自分自も、嫁がすべてえてくれることを当然だとっていたからだ。
昼になると、さらに困った。いつもなら蔵庫に煮物やおひたし、昼用のさなおかずが入っているのに、今は作り置きがつもない。
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加代は漬物と菓子で腹を満たしながら、ようやく「美子さん、本当に帰ってこないのかしら」とを覚え始めた。
夜7を過ぎても美子は戻らなかった。
最初に帰宅した翔太は、卓を見て「まだ飯ないの?」と嫌になった。彩佳はコンビニのサラダ、匠はハンバーガーを買って帰り、孝志はデリバリーのピザを注文した。
5は箱やプラスチック容器を広げ、昨と同じようにテレビとスマートフォンを見ながら事をした。しかし、べ終わった容器を片づけるは誰もおらず、空き箱やカップがそのまま残された。
彩佳がを取りに台所へ入った、蔵庫の横に何もないことへ気づいた。
「……献表、なくなってる」
幼い頃からずっと貼ってあっただった。母が族の予定を聞きながら何度もき換えていたため、それがない蔵庫は妙にく、まるでらないのように見えた。
その、彩佳の胸に初めてさな違がまれた。
母は本当に、ただってていっただけなのだろうか。
美子がをて2目になると、のには目に見える変化が現れ始めた。ゴミ箱はコンビニ弁当や惣菜の容器でいっぱいになり、流し台には朝から使ったカップや皿がなっている。洗濯籠からは類があふれ、誰もゴミの収集曜さえ把握していなかった。
「こんなことでいつまでってるんだ」
孝志は汚れたシャツの襟を気にしながら苛った。