"50件のSOSと愛人親子に回した救助車" 第20話
幸恵はく、入りの方へ線を向けた。
黒いコートを着た男が、のでじっとち尽くしている。
かつての武史なら、自分が入るのを誰かに止められれば激昂して無理やり押し通ったはずだ。
しかし今の彼は、警備員と押し問答をすることもなく、ただそこにっていた。
越しに、2の線が1度だけ交錯した。
武史が歩こちらへ踏みそうとする。
幸恵はゆっくりと首を横に振った。
それだけで分だった。
武史はぴたりときを止めた。
幸恵は1で、勇気の墓に歩み寄った。
遺ので微笑む息子は、永に7歳のままだ。
が流れていくのは、き残っただけに許された残酷な特権だった。
幸恵は墓ののを優しく払い落とし、さな青いミニカーをそのに置いた。
「勇気、ママが来たよ」
最初は、ごく普通に語りかけた。
幼稚園で仲良しだった健太君の背がすごく伸びていたこと。
おじいちゃんが今でも社に勇気の写真を飾っていること。
勇気の名で作られたしいルールの説。
「今、救助のが1台も違った所にかなかったのよ」
そう語りかけるうちに、幸恵の声がしずつ震え始めた。
「ママも、元気に過ごそうと頑張ってるよ」
彼女は無理に笑みを作った。
「まだ完全に元気ってわけじゃないけど。でも努力してる」
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幸恵は袋をしたで、遺の縁をそっとなぞった。
「勇気がいないのに、ママが笑ってもいいのかずっと分からなかった」
彼女はさく息を吐いた。
「でも最、しだけ分かってきた気がする。ママがを向いてきていくことは、勇気を忘れるってことじゃないんだよね」
彼女は溢れる涙を拭った。
「ごめんねっていうのも、もう毎は言わないようにする」
彼女は墓を抱きしめるようにを置いた。
「最の瞬まで、ママがずっと勇気を抱っこしてたこと。それだけは絶対に忘れないから」
たいがく吹き抜けていった。
彼女はしばらくの何も言わずに、ただその所に座り続けていた。
同じ頃、霊園の入りで待っていた武史のスマートフォンに、見らぬ番号から1つのデータファイルが届いた。
発信者は病院の記録管理チームだった。
数ヶ、幸恵側の請で荘から回収されたスマートフォンのデータを復旧する過程で、消されずに残っていた音声ファイルが1つたに見つかったという説が添えられていた。
『ご遺族にもお渡ししましたが、実の父親である川様にもご提供いたします』という事務な文面だった。
武史のが張った。
ファイルの再は、わずか11秒。
彼は再ボタンを押すことができず、ただ画面を見つめていた。
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今まで何度も聞かされた幸恵からの痛な留守番話が、をよぎる。
の認証番号を求める声。
勇気の息が苦しいと訴える声。
1度でいいから話にてと懇願する声。
その度に、自分はスマートフォンを裏返していたのだ。
数分が過ぎて、ようやく武史はイヤホンもつけずに再ボタンを押した。
最初はが唸るようなノイズだけが聞こえた。
そして、ひどく微な息遣いのに、ひび割れたさな声が流れした。
『パパ……』
たった言だった。
その直に子供が激しく咳込む音が聞こえ、ファイルは唐突に終わった。
武史はき1つできなかった。
もう1度再する。
『パパ……』
さらにもう1度押した。
『パパ……』
3回目が終わった、武史のからスマートフォンが滑り落ちた。
彼はのに両膝をついた。
声を殺そうとしたが、結局、獣のような慟哭が喉の奥から破裂した。
勇気が最の最まで自分を探していたという事実よりも、さらに残酷なこと。
それはまさにその瞬、自分が何をしていたのかが、あまりにも鮮にいせるということだった。
の効いた適なヴィラ。最級のワイングラス。燃える炉。
里奈が見せてきた偽物の族写真。
そして、煩わしい着信のバイブレーションを、自らので切ったあの瞬。
彼はのからスマートフォンを拾いげ、再びファイルを再した。
今度は最まで聞くことができず、両で顔を覆った。
「ごめん」
誰のにも届かない謝罪だった。