"祭り食堂の逆襲" 第8話
そこには、プロジェクトリーダーとして「岩田京介」の名が誇らしげに印字されている。
岩田はそれを無表で閉じ、またき、そして壁に向かって資料を投げつけた。
曜の昼。
ランチ営業が終わり、けい子が先の簾をろそうとした、級なスーツを着た男が1、無言でに入ってきた。
けい子には見覚えのない顔だったが、その男の纏うたく見すような雰囲気には、どこか既があった。
男は「いらっしゃいませ」という言葉を待たず、断りもなくカウンターの丸子にドカリと腰をろした。そして、スーツの内ポケットから分い茶封筒を取りした。
「……先の、キャンセル分の代です。これで結構ですね」
その声を聞いた瞬、けい子は息を呑んだ。
声で分かった。あの話の男だ。
岩田は封筒をカウンターにポンと置くと、指先でツーッとけい子の方へ滑らせた。はらかに料理代以のみがあった。
岩田は、けい子の顔を見ようともせず、内を値踏みするように見回して言った。
「それと、この件は言無用、ということでお願いしたいんです。公なさらないよう。うちにも、いろいろとがありますので」
岩田はさらに言葉をねる。
「もし誰かに何かを聞かれても、『すでに話はついている』と。それでお願いしますよ」
けい子は、カウンターに置かれた封筒をじっと見たが、決しては伸ばさなかった。
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厨の奥から、学から帰ってきたばかりの健太が顔をした。背にはまだランドセルを背負ったままで、男の横柄な態度をじっと無言で睨みつけていた。
けい子は、静かに、だがはっきりとした声で言った。
「あののことは、もう終わったことです」
岩田が怪訝そうに眉をひそめる。
「今更こんなことをされても困ります。もう度と、関わりたくありません」
岩田の眉がピクリといた。彼はで笑い、苛ちを隠さずに言った。
「いや、こちらは誠を示しているつもりなんですがね。普通のなら、ありがたく受け取るものでしょう?」
「お引き取りください」
「は?」
岩田が威圧にを乗りした。
「言っときますけどね。うちみたいなの会社が、こんな個の定にこれだけの額を持ってくるのは、異例の異例なんですよ。分かってます? これ以揉めたって、そちらに何の得もないでしょう」
けい子は表を変えなかった。彼女は、岩田の滑らせた封筒に指を2本だけ添え、ゆっくりと、しかし確実に岩田の方へと押し戻した。
「……持って帰ってください」
岩田は、しばらくけい子の顔を睨みつけていたが、けい子は決して目を逸らさなかった。その凛とした瞳に、岩田の方が気圧されたように線をした。
やがて岩田が乱暴に封筒をひったくるように掴み、ちがった。
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丸子がをこすり、ギギッとな音を鳴らした。
「……こんな潰れかけのボロ定が、調子に乗りやがって」
岩田は吐き捨てるように言い、引き戸を力任せにピシャリと閉めててった。
健太がトコトコとけい子の横に来て、閉まった引き戸をじっと見ていた。それから、けい子のエプロンの端をさなでギュッと掴んだ。
けい子は、その震えるさなに、自分のを優しくねた。
「母さん……あのお、いらないの?」
「うん。いらないよ」
健太は、母の横顔を見て、それ以何も聞かなかった。
その夜。
岩田は自で焦燥に駆られ、同期のに話をかけた。
「おい、。あののキャンセルのことだが……もし会社から何か聞かれたら、あの『2で相談して決めたこと』にしてくれないか?」
岩田の声は焦っていた。
「いや、いっそ瀬川が勝に予約したから、俺たちがキャンセルしたことにすれば、話は丸く収まる」
は、話の向こうでいこと黙って聞いていた。そして、たく、のような声でこう言った。
「……悪いな、岩田。俺、あのの夜、おが何て言ったか、全然覚えてないわ」
プツッ。
話は方に切られた。
岩田は、通話の切れたスマホをに当てたまま、暗い部ので、呆然とち尽くしていた。
翌。部が、アポなしで直接柏建設の本社へと向いた。
「どうしても、辞退の本当の理由を社のから直接聞かせてほしい」