"祭り食堂の逆襲" 第6話
背で、男が誰かの職に落ち着いた声で指示をしているのが聞こえたが、岩田は振り返ることなく現事務所へと消えていった。
その頃、昼がりの祭り堂に、1の配の職が簾をくぐってやってきた。
髪混じりの髪に、赤に焼けしたいシワの刻まれた顔。柏建設のベテランで、松という男だ。58歳。勤続数は30を超える。
彼は、あの夜、50で座敷を埋めた男たちのうちの1だった。
松はカウンターの隅に座り、替わり定を1つ頼んだ。
された事を、彼は黙々とべた。決して背を丸めず、箸の持ち方は見惚れるほど綺麗だった。
綺麗に平らげ、いお茶をすすってから、松はぽつりとをいた。
「先代には、本当に世話になりました」
カウンターので洗い物をしていたけい子は、驚いてを止めた。
「父を……ごなんですか?」
松は湯呑みを置き、懐かしむように目を細めた。
「ええ。うちの会社が、まだ社員10しかいなかった頃です。の寒い期に仕事が途切れて、がなくて、番いかけうどんしか頼めない期がありましてね……」
松は言葉を区切った。
「それでも先代は、『腹を減らしたまま仕事にくな』と言って、頼んでもいない盛りの豚の角煮を、黙ってわせてくれたんです」
けい子は胸がくなった。
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父からそんな話は度も聞いたことがなかった。の古い帳簿にも、そんなツケの記録はどこにも残っていない。
松は静かに微笑んだ。
「あの頃、角煮をわせてもらった連は、今でもここのの話をします。うちの親方も、若い頃からここによく通っていましたからね」
松は湯呑みを両で包み込んだまま、ゆっくりとのを見回した。
季の入った飴の柱の傷、煤けた井の梁、壁の継ぎ目。つつの歴史を確かめるような、職特の優しい目つきだった。
「変わってませんね。ここは」
けい子は、恥ずかしそうにエプロンでを拭いた。
「……直すおがないだけです。お恥ずかしい」
けい子がそう言うと、松の目尻のシワがさらにく刻まれ、目が糸のようになった。
「そういうのが、番いいんですよ。変わらないのが」
それだけ言って、松は代をキッチリとカウンターに置き、簾をくぐってていった。
けい子は、そのきくて頼もしい背に向かって、く、くをげた。
それから4の朝。
建設の支に、通の面が速達で届いた。
朝番の郵便物の束に混じっていたその封筒は、見するとただの事務連絡のようだった。
しかし、封を切ってを読んだ支の事務員が、顔面を蒼にして2度読み直し、震えるで即座に本社の部へ連絡を入れた。
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『柏建設からの、共同企業体(JV)組成の辞退届』
実は、そのの夕方。柏建設の社から、建設の部宛に、直接話で報が入っていたのだ。
突然の「辞退の向」が伝えられ、は血相を変えてそので理由を尋ねたが、先方はくを語らず、「面を送る」とだけ答えて話を切った。
翌朝届いたこの面は、その正式な、そして決定な通だった。
その同じ朝。祭り堂では、けい子が裏の勝に座り込み、のような里芋の皮を剥いていた。
昼の定にす煮物のごしらえだ。
あの夜の宴会以来、作業着姿の職たちがしずつ、昼休みに顔をすようになっていた。には以よりも活気が戻りつつある。
ただ、奥の座敷の井のシミは、まだそのままだった。
午10。
部、52歳が、京本社から血相を変えてこの支に乗り込んできた。
予定にない急な移だった。
直ちに番広い会議に主なが集められ、現主任である岩田も呼びされた。
の顔は気だった。声はく、決して鳴ってはいなかったが、をうようなその声のトーンが余計に事態のさを物語っていた。
「……港台の件。柏建設が、りた」
会議はを打ったように静まり返った。誰も声をさなかった。皆、息をするのすら忘れたようだった。
が言葉を継ぐ。
「正式に契約を結ぶには、がした絶対条件がある。『元の会社と緒に事をやること』だ。