"祭り食堂の逆襲" 第4話
「とんでもございません。まだまだ若輩者でございます」
岩田はすぐにお銚子をに取り、腰を浮かせて両で役員のグラスに酒を注いだ。その際、彼の首に巻かれた級腕計が、個のシャンデリアのを受けてギラリとった。この、昇祝いに自ら買ったものだ。
彼のまいは、駅にそびえつタワーマンションの18階。賃の半分は会社が負担しているという、エリートの証のような活だった。
役員が嫌で続ける。
「港の契約がまとまったら、来は本社に戻ってもらうことになるかもしれんな」
岩田は目を輝かせ、々とをげた。
「に余るお言葉です。必ずや、結果をしてみせます」
彼は揉みをしながら、顔の筋肉をフルに使って笑いを浮かべ続けた。
やがて、役員が「し席をす」と笑いながらちがり、廊へてった。
襖がピシャリと閉まったその瞬。
岩田の顔つきから、柔な笑いが瞬にして消え失せた。
彼はネクタイの結び目を乱暴に緩め、座子にふんぞり返るようにく座り直した。そして、お銚子を酌で自分のグラスに傾け、気に音をててみ干した。
「ふぅー……いやぁ、危なかったわ。あののままだったら、司の顔に塗るところだったわ」
岩田の隣に座っていた同期のが、ヘラヘラと笑いながらを乗りした。
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は29歳、太りで首がく、笑うと隙のある歯が見える男だ。
「そういえば今って、あの『祭り堂』とかいうじゃなかったか?」
「ああ、それ」
岩田は空になったグラスをテーブルにドンと置いた。
「瀬川が『おすすめだ』って言うから予約入れたんだけどさ。直にネットで調べたら、まあボロくてさ。あんなところに、危うく司連れてくとこだったよ」
がを叩いて笑う。
「さすが岩田! 危管理だけはいな!」
「だろ?」
2の笑い声の向かいで、岩田の部である瀬川、25歳が、豪華な料理に切をつけることなく、うつむいて座っていた。瀬川は柄で、しサイズのわないよれよれのスーツを着ていた。
瀬川が「祭り堂」を選んだのには、い理由があった。
子供の頃、今はき父親に連れられて、休のたびに何度も通ったいのだったのだ。父が単赴任でを空けるようになってからも、母と2で寂しさを紛らわすように通い続けた。
「歓迎会のを探せ」と岩田に命令された、瀬川のに真っ先に浮かんだのが、あの温かい角煮のと、優しい女将の笑顔だった。
瀬川は、膝ので固く拳を握りしめ、顔をげずにをいた。
「あの……」
「ん?」
岩田が横柄な線を向ける。
瀬川の声は微かに震えていた。
「本当に、貸し切りのキャンセルで良かったんでしょうか……? おの方、もう仕込みを始めていたとうんです。
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当になって、いきなり……」
岩田はで笑い、グラスの氷をカラカラと鳴らした。
「今更何言ってんの?」
岩田は酷な目で瀬川を見ろした。
「ああいう貧乏臭いで、まともな宴会ができるとってる方がおかしいんだよ。体、あんな、潰れたって誰も困らないし。むしろ再発のために潰れた方が、のためだろ」
瀬川は何も言い返せず、再びくを向いた。
岩田はさらに声を張りげた。
「体さ、この町のはこれだから困るんだよ。何でもでどうにかなるとってる。京だったら、そんなの通用しないよ。仕事は結果が全てだ」
が隣できく頷きながら、同調して笑った。
「全くだな!」
瀬川の持つ箸の先が、震えで皿の縁に当たってカチッとさな音をてたが、岩田もも全く気づくことはなかった。
その夜、19半。
祭り堂のくたびれた引き戸が、ガラガラと音をてていた。
けい子が顔をげると、そこには作業着姿の男たちが次々と入ってくる姿があった。
あの夕方の男性が「仲を誘う」と言っていたが、けい子はせいぜい5か、くても10程度だとっていた。
だが、先の男が「こんばんは」と挨拶をして靴を脱ぎ、座敷の席についても、まだろからぞろぞろと男たちが入ってくる。
10、20、30……。
広い座敷が、端から順番にあっというに埋まっていった。
けい子は途で数を数えるのをやめた。