"祭り食堂の逆襲" 第2話
「おはようございます。女将さん、今夜はよろしくね」
エプロンをつけながら声をかける2に、けい子は丁寧にお辞儀をした。
「おはようございます。朝くから、本当に助かります」
昼を過ぎ、通常のランチ営業が終わったも、けい子は休むもなくき続けた。のように積まれた根の面取り、鍋での炊き込みご飯の準備、煮物のごしらえ。彼女のは休まることなく、次々と材を美しい料理へと変えていく。
17。窓のが茜に染まる頃、厨から来がった料理が次々と盆に乗せられて運ばれていく。
パートの2が、い皿を抱えて厨と奥の座敷のを何度も往復した。
座卓のには、菜の盛りわせ、お造り、そしての板メニューである豚の角煮が美しく並べられていく。
けい子自も、炊き込みご飯の入ったお櫃を両で抱え、座敷へとを運んだ。
「あとしで、全部並べ終わるわね」
けい子が額の汗をの甲で拭い、ほっと息をついた、まさにその瞬だった。
ジリリリリ、と。
内に据え付けられた黒話が、沈黙を破るようにけたたましく鳴り響いた。
けい子は歩みを止め、急いでレジ台へと向かい、受話器を取りげた。
「はい、祭り堂でございます」
受話器の向こうから、若い男の事務でたい声が聞こえた。
「建設の岩田です。
広告
本の予約ですが、キャンセルで」
けい子は、受話器を持ったまま、瞬言葉のが理解できなかった。のが真っになり、呼吸が止まる。
「……あの、本、と申しますと?」
震える声で聞き返すと、男——岩田は、底面倒くさそうな声で吐き捨てた。
「今夜の分です。別のにしましたので」
けい子はパニックになりながら、受話器を両で握りしめた。
「そんな……! もう仕込みが終わって、料理も並べてしまっています。宴会のまで、まだあと2ありますよね?」
岩田は全くじる様子もなく、で笑った。
「商売やってるなら、こういうこともあるでしょう」
その、受話器の奥で、背の誰かが岩田に何かを言った気配がした。それに答えるように、岩田の元が受話器からしれた。
「あ、貧乏の飯なんかえねえよ」
そして、品な男たちの笑い声が響き渡った直、ガチャリと無な音をてて話は切れた。
けい子は、元で鳴り続けるツーツーという音を聞きながら、受話器を持ったまま彫像のようにけなくなった。
奥の座敷では、パートの2が何もらず、まだ最の膳を笑顔で運んでいる。
けい子は、震えるでゆっくりと受話器を本体に戻した。そして、エプロンのいポケットにを入れて、輪ゴムで束ねられた領収の束を取りした。
番のには、丸青果、丸昇精肉、鶏直送の文字が並んでいる。
広告
計、8万7500円。
こののために、奮発して揃えた極の材の代だ。
けい子は、その数字を指の腹でそっとなぞり、そしてまた静かにつに折りたたんでポケットの底に沈めた。
彼女はい取りで座敷の入りにった。
まだ温かいままの50分の膳が、誰も座ることのない座敷に然と並んでいる。角煮からは豊かな湯気がちり、美しそうなりが部を満たしているのに、それをべる客は来ない。
引きしのの見積もりがをよぎった。根の修理も、また先送りになる。
けい子は、料理を並べ終えて額の汗を拭うパートの2に歩み寄った。彼女は無理に角をげ、努めて平坦な声をした。
「……これ以、運ばなくていいわ」
パートの2は、怪訝な顔をして振り返った。
「ええ? どうして?」
けい子は、に目を落としながら言った。
「お料はちゃんと払うから、今はもう、がってちょうだい」
2は驚いた顔を見わせた。
「今はもう、いいの?」
「……ええ」
2は何か異常な事態が起きたことを察したが、けい子の青ざめた横顔を見て、それ以は何も聞かなかった。彼女たちはエプロンをし、けい子の肩をそっと労わるように叩いて、静かに裏から帰っていった。
誰もいなくなった内で、けい子はい取りで厨に戻った。
すると、厨の隅で、健太が配そうな顔をして彼女を見げていた。
「母さん、どうしたの?」