"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第13話
おまえの会社の……臨試験用の……圧剤だな……。
わしは……んだふりをして……あの瓶を……神棚の奥に……隠しておいたぞ……』
「ひっ……!」
修が、両で自分のを抱え込み、獣のような鳴をげた。
「な、なんで……なんで親父が、あれを……!」
「、あなたが『体にいい栄養剤だ』と言ってませた劇薬。お義父さんは全部をみ込まず、の端から吐きし、ティッシュに包んで保されていました」
桐原弁護士が、徹な声で畳み掛ける。
「すでに、神奈川県警捜査課に鑑定資料として提済みです。薬品のロット番号は、当あなたが担当していた治験データのものと完全に致しました。
修氏。あなたには、尊属殺未遂、ならびに業務横領、詐欺の容疑で、すでに逮捕状が請求されています」
「あ……ああ……」
修のから、泡のような唾液が垂れ落ちた。
エリート経理部の仮面が、音をてて砕け散っていく。
だが、獄はそれだけでは終わらなかった。
「……子さん、健さん」
私が静かに名を呼ぶと、はいつくばったまま、怯えた目で私を見げた。
「あなたたちが、お義父さんの座から無断で引きした活保護の正受幇助、そして形見の貴属の横領。すべて、このの介護誌にと額を記録してあります。
警察に被害届を提するかどうかは、あなたたちが今ここで、切の遺留分放棄に署名するかどうかにかかっています」
広告
桐原弁護士が、あらかじめ用されていた通の類を、の先に滑らせた。
「きます! きますから! あたしは何もらなかったの! 全部修兄貴に言われてやっただけなの!」
子が泣き叫びながらボールペンを奪い取り、震えるで名を殴りきした。 健も、涎を垂らしながらそれに続いた。
内の絆など、が消えればこの程度のものだった。
残された修は、虚ろな目で宙を見つめていた。
「……退職……。俺の、千万円の退職は……。美子と、息子の直は……どうなるんだ……」
「退職ですか?」
桐原弁護士が、たい笑みを浮かべて、胸ポケットからもう枚のFAX用を取りした。
「今朝番で、あなたの勤務先の顧問弁護士から届いた通です。
業務横領および親族でのな背任為が発覚したため、本付で懲戒解雇処分。退職の支は、全額差し止めとなりました」
「……ちょう、かい……かいこ……?」
「さらに、あなたが美子氏に買い与えた武蔵野のマンションですが。……として使われた千万円は、源造先の定期預から無断で解約されたものでした。本、産の仮差し押さえが完しました」
その、修の元に転がっていたスマートフォンが、再び激しく振した。
ディスプレイに表示された名は――『美子』。
スピーカーホンが勝にオンになったのか、受話器の向こうから、ヒステリックな女の鳴り声が居に響き渡った。
広告
『ちょっと修! どういうことよ! 今、裁判所の執官が来て、マンションからてけって言われたんだけど!
退職でしい会社作るんじゃなかったの!? 直の私学の学費はどうすんのよ!
あんた、クビになったって本当なの!? 冗談じゃないわよ、のない寄りに用なんてないのよ! 度と連絡してこないで!』
ブツッ、ツーツーツー……。
方に切られた通話。
、妻を裏切り、父親を毒にかけ、血を分けた息子のためだと信じ込んで貢ぎ続けてきた女からの、あまりにも無慈な絶縁状だった。
修は、呆然とスマートフォンの画面を見つめていた。
そして、ゆっくりと私を見げた。
その瞳には、もはや傲さも、酷さの欠片も残っていなかった。 あるのは、すべてを失った老の、見苦しい怯えと懇願だけだった。
「……敏子……。頼む……。悪かった……俺が悪かった……!
おが子供を産めなかったことだって、本当は責める気なんてなかったんだ! 俺がどうかしていたんだ!
頼むから、許してくれ……! このを追いされたら、俺はく所がないんだ! 無文なんだ!
の介護、謝してる! これからは俺がおに尽くす! 召使いのように働くから……! 警察への被害届を取りげてくれ……!」
修は畳に額を擦り付け、私の元にすがりついてきた。