"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第9話
「駄々などこねておりません」
私は居の央へみた。 座卓のに置かれたままの、昨夜の枚の。
『協議婚届』 『親族贈与及び渡誓約』
私はその類のにち、ややかに修を見据えた。
「この類には、署名も捺印もいたしません」
居の空気が、瞬にして凝固した。
子が鏡を落とし、パリンとさな音をてた。 健が目を丸くしてちがる。
「はぁ!? てめえ、昨夜の殊勝な態度は嘘だったのかよ!」
修の顔から、先ほどまでの余裕の笑みが消え失せた。 額に青筋を浮かべ、私との距を歩、詰め寄ってくる。
「敏子。……俺の言葉が聞こえなかったのか? おに拒否権などないと言ったはずだ。子供も産めず、のに寄してきたおが、何の権利を主張する気だ」
「権利ですって?」
私は、ふっと元を歪めた。 まれて初めて、この男ので見せた嘲笑だった。
「私はこの、度としてあなたに養ってもらった覚えなどありません」
「な……んだと?」
「活費として渡されていたのは、わずか万円。それも、お義父さんのオムツ代と消毒薬代で毎赤字でした。私の独代の貯を取り崩し、図館のパート代を注ぎ込んで、このを回してきたのは私です」
「黙れ!」
修が鳴り声をげ、座卓を蹴りばした。 湯呑みが倒れ、めた茶が畳のに黄い染みを作っていく。
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「それがどうした! 法には、このもも親父の名義であり、親父がんだ以、法定相続である俺たちのものだ! おのような『嫁』には、坪の相続権もありはしないんだよ!」
「ええ、っています」
私は歩も退かなかった。 修の気に満ちた線を、正面から受け止める。
「ですが、お義父さんの法が終わってまだです。届の提に伴う世帯主変更も、相続財産の調査も、何つ正式に完していません。民法の占権は、現にここに起居している私にあります。法な財撤は、居侵入および器物損壊罪に当たります」
作業員のリーダーが、ぎょっとして顔を変えた。 クリップボードを抱え込み、ずさりをする。
「お、お客様……これ、親族の揉め事ですか? そういう案件は、うちでは作業できませんよ。警察汰になったら困りますから」
「おい! 待て! を払うのは俺だぞ!」
修が鳴るが、作業員たちは顔を見わせ、玄関へと引き返し始めた。
「申し訳ありません、旦で待させていただきます!」
バタバタと作業員たちがてき、玄関のドアが閉まる。
居に残されたのは、修の荒い呼吸の音だけだった。
修の目が、血り、狂気を帯びて私を睨みつけていた。
「……お、誰に恵をつけられた」
をうような、い声だった。
「世らずの専業主婦が、占権だの器物損壊だの、気なを利けるはずがない。
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……裏で誰と繋がっている」
「誰とも繋がっていません。ただ、勉しただけです。あなたのような卑劣なに、をい物にされないために」
「このアマ……ッ!」
健が拳を振りげ、私に向かって突してきた。
「兄貴、構うこたぁねえ! 力づくでつまみして、荷物ごとに放りしてやりゃあいいんだよ!」
だが、健が私の体に触れる寸。
私は、エプロンのポケットから、枚の黄く変した細い片を取りし、健の先に突きつけた。
健のが、ピタリと止まった。
その片に印刷された文字を見た瞬、健の顔から血の気が完全に引いた。
『質 黒堂 お預かり証』 品名:製 純懐計(刻印:源造) 受取額:万円 付:先週曜
「……な、なんで、それを」
健の喉から、ひゅっと掠れた笛のような音が漏れた。
私はたい目で、義弟を見ろした。
「先週の曜、お義父さんが息を引き取られる。あなたが『親父の見いに来た』と言って、お義父さんの枕元の引きしをごそごそ弄っていたのを、私は障子の隙から見ていましたよ」
「ち、違う! あれは親父がに『おにやる』って……!」
「お義父さんは識の体でした。喋れるはずがありません」
私はさらに、もうつの事実を突き刺した。
「昨夜、居であなたが数えていた典袋。参列者の芳名帳の額と、の計がっていませんね。