"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第3話
毎、震えるでスイッチを押し、NHKの第放送をぼんやりと聴いていたはずだった。
「……お義父さん」
私はそのたいプラスチックの筐体に触れた。
源造がくなった昨夜、修はこのレコーダーを瞥もしなかった。 『そんなガラクタ、燃えないゴミに捨てちまえ』と言い放っただけだった。
私はレコーダーを持ちげ、何気なく裏返した。
単乾池が本入るはずの、裏側の池ボックスのフタ。
そのフタのツメが、自然に浮いていた。
セロハンテープで留められていた跡がある。 だが、そのテープは何度も剥がされ、貼り直されたせいで、粘着面に埃が付着して黒ずんでいた。
胸の奥が、さくざわついた。
源造の乾池の交換は、いつも私がやっていた。 最に池を替えたのは、ヶのはずだ。
その、こんなテープの跡はなかった。
私は爪をて、慎にセロハンテープを剥がした。
パチン、と乾いた音をててプラスチックのフタがれる。
かりの、かれた池ボックスのを覗き込んだ瞬、私の息が止まった。
乾池は、本も入っていなかった。
代わりに、細い空洞のに押し込まれていたのは――。
汚れたに包まれた、本のカセットテープだった。
マクセル製の、分テープ。
そのプラスチックのケースの背表ラベルに、黒い油性ボールペンの文字が刻まれていた。
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定規で引いたような直線ではない。 脳梗塞の遺症で、激しく震えるで、何度も、何度も、プラスチックの表面を削るようにしてねきされた文字。
『トシコヘ』
カタカナ文字。
私の名だった。
臓が、鐘のように打ち始めた。
トシコへ。
源造は、字がけなかったはずだ。 に倒れて以来、は辛うじてくものの、ペンを持たせてもミミズがったような線しか引けず、疎通は音表を指差すことすら困難だったはずだった。
それなのに、なぜ。
私は震える指先で、池ボックスからそのテープを引き抜いた。
の隙から、もうつのさな属片がポロリと畳のに落ちた。
にる、鍵だった。 見たこともない、さセンチほどの平たいさな鍵。
居の方から、ドン、と座卓を叩く修のきな笑い声が聞こえてきた。 酒盛りが始まったらしい。
私は咄嗟にテープとさな鍵を掛けのポケットにねじ込んだ。
全の毛穴がき、たい汗が背を伝い落ちる。
このテープを、今すぐ聴かなければならない。
だが、元にあるこのレコーダーには池が入っていない。 居にけばコンセントはあるが、修たちのでこれを再することなど能だ。
私は記憶の引きしを必で探った。
――そうだ。押し入れの奥だ。
私が嫁入り具として実から持ってきた、さな裁縫箱。
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その底に、以に語学学習用に使っていた、のひらサイズのポータブルカセットプレーヤーが眠っているはずだ。
私はちがり、音をてないように押し入れの襖をけた。
積まれた段ボールの奥から、製の裁縫箱を引きす。 留めをし、仕切り皿を持ちげる。
あった。
黒いプラスチック製の、イヤホン付きプレーヤー。 フタをけると、幸運にも単乾池が本、液漏れもせずに装填されたままだった。
私は震えるで、ポケットから『トシコヘ』とかれたテープを取りした。
カチリ、とホルダーにセットし、フタを閉じる。
に、古いスポンジの破れたイヤホンを差し込んだ。
居からは、まだ義弟たちの品な笑い声が聞こえている。
私は源造のベッドの、畳のにさくうずくまり、再ボタンを指先で押し込んだ。
ジャッ……ジジジッ……。
摩擦の擦れるノイズが、の奥で鳴り響いた。
数秒の沈黙の、い、擦れたような呼吸音がマイク越しに伝わってきた。
『……ハァ……ッ……ハァ……』
それは、苦痛に満ちた、老のあえぎ声だった。
そして。
掠れ、ひび割れ、途切れ途切れになりながらも――紛れもなく、かつての義父・源造の、確かな理性を帯びた声が鼓膜を打った。
『……とし、こ……。この……テープを……きいて、いるなら……わしは、もう……しんだな……』
私はわず、両でを塞いだ。
喋れている。
言葉を失ったはずの源造が、呂律は酷く回っていないものの、瞭な単語として言葉を紡いでいた。