"義父を八年看取った夜、手切れ金は三万円" 第2話
旅どころか、所のスーパーへ買い物にくのでさえ分以内に戻らなければならなかった。
その、修は何をしていたか。
に度、気まぐれに源造の部を覗き、 「親父、しっかりしろよ」 と肩を叩くだけだった。
介護保険の続きも、ケアマネージャーとの折衝も、夜の救急搬送も、すべて私の肩に背負わされてきた。
修から渡される活費は、わずか万円。
おむつ代や清拭用の消毒用アルコール、ドラッグストアで買う使い捨て袋の領収を枚でも失くせば、修は夜まで私を居にたせ、円単位で詰問した。
『稼ぎもない居候が、俺のを無駄遣いするな』と。
その獄のようなが、昨夜ようやく終わったのだ。
源造の骨壺は、まだ仏壇のでえ切ってもいない。
それなのに、されたものがこの枚の切れだった。
「……私は、あなたに尽くしてきました」
私は畳に爪をて、絞りすように言った。
「お義父さんの介護も、も休まずに……」
「だから『ご苦労だった』と言っているだろう」
修は苛たしげに眉をひそめ、差し指で座卓の『協議婚届』をトントンと叩いた。
「勘違いするなよ、敏子。おがやったのは介護じゃない。ただの『罪滅ぼし』だ。子供を産めず、の血を絶やそうとしたおが、このにタダ飯らいで置いてもらうための最限の賃代わりだったんだよ」
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「賃……?」
「そうだ。慰謝料も財産分与も切さない。このも、俺の退職千万円も、すべて俺が汗流して稼いだものだ。おのような無能な専業主婦が、円でも求できるだとうな」
「兄貴、もういいだろ。の朝には粗ゴミの回収業者と引越しが来るんだ。さっさと署名させろよ」
健がせせら笑いながら、本の黒い油性ボールペンを私の膝元へ放り投げた。
ペン先が畳のを転がり、私の膝に当たって止まる。
のたい線が、刃物のように私を取り囲んでいた。
しみは、湧いてこなかった。
、しずつ削り取られてきた私のので、最の片がカチリと音をててえ固まった。
このたちは、ではない。
最初から、私をとして見てなどいなかったのだ。
利用できるだけ利用し、最の最まで搾り取った使い捨ての雑巾。 それが、彼らにとっての「男の嫁」だった。
「……分かりました」
私はをげた。 声は、自分でも驚くほど平坦だった。
「今夜晩、荷物をまとめるをください。の朝、この類に判を押して、鍵を置いててきます」
修は満そうにの端を吊りげた。
「聞き分けが良くて助かるよ。余計なものを持ちすなよ。箪笥のも、親父の遺品も、すべて確認させてもらうからな」
「ええ。
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私の古いと、の回りのものだけにします」
私は静かにちがり、く礼して居をた。
背から、 「やっと片付いたな」 「からはせいせいするぜ」 というの笑い声が、えた廊に漏れ聞こえていた。
私は音を忍ばせ、廊の突き当たりにある、畳のへ向かった。
昨まで源造が横たわっていた、介護部だ。
引き戸をけると、腔を突く独特の匂いがした。 消毒液と、湿布薬と、老いたの皮膚の匂いが染み付いた、あのの匂い。
央の介護用ベッドはすでにシーツが剥がされ、骨組みだけのたい鉄の塊になっていた。
部の隅には、源造が使っていた子と、さな茶箪笥。
私は部のかりをつけず、かりだけを頼りに茶箪笥のに膝をついた。
持っていくものなど、最初からほとんどなかった。 私の私など、数に買った褪せたセーターと、スーパーの特売で買ったズボンが数本あるだけだ。
段ボール箱をつ広げ、自分の古着を械に詰め込んでいく。
そのだった。
茶箪笥の最段、源造が最までの届く所に置いていた、台の古い械が目に留まった。
昭の終わりに作られた、ナショナル製のポータブルカセットテープレコーダー。
の塗装が剥げ落ち、スピーカーの網目には埃が詰まっている。
源造は、テレビの音を嫌った。 半が麻痺し、言葉を失ってからも、このラジオカセットだけは枕元から絶対にそうとしなかった。