"毎月100円を振り込む名医の20年" 第16話
「綾乃、おは……」
「私は、母を連れてあのをるわ。……ゼロから、自分のできてみる。内さんのお父さんみたいに、自分の名に恥じないき方を、探してみる」
彼女の顔には、もう迷いはなかった。 崩れたマスカラの跡も拭わず、まっすぐにを見つめるその瞳は、会った頃のどの瞬よりも美しく、凛としていた。
軽トラは、スロープを登り始めた。
の淀んだを抜けすと、夜の澄んだ気がフロントガラスの隙から吹き込んできた。 灯のが、ボンネットの無数の傷を優しく照らししていく。
助席からバックミラーを覗き込むと、ホテルの搬入のに、さくなった綾乃のシルエットが、いつまでもち尽くしているのが見えた。
翌週、元の社会面の隅に、さな記事が掲載された。
『県医師会名誉理事就任の崎氏、健康の理由により辞退 崎記病院院も辞任へ』
記事には、のひき逃げ事件の再捜査についての記述はなかった。 効が成している以、司法が仁を法廷で裁くことはできない。 だが、域の医療関係者のでは、カセットテープの音声と裏帳簿のコピーが瞬くに広まり、崎は事実の社会追放を受けた。 病院は別の医療法へ売却され、豪邸の表札はされたという。
そんな喧騒など、町のには切届かなかった。
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梅がけたの朝。 の空が茜から抜けるような青空へと変わっていく半、軽トラの助席の窓を全にして、私は父の隣に座っていた。
「拓、次の角のゴミ集積所、段ボールが束とるぞ」
「解」
私は助席からびり、際よく段ボールを荷台に放り込んだ。 埃がいがり、朝ののでキラキラとる。
父は運転席で、油染みのついたハンドルに両を添えながら、よさそうに目を細めていた。 ラジオからは、爽やかな朝のニュースと、軽なポップスが流れている。
父の指先は、相変わらず洗っても落ちない黒ずみで覆われていた。 だが、そのは今、どんな名医のメスよりも、どんな権力者のダイヤモンドよりも、誇りく、美しく見えた。
「父さん、今のルート終わったら、美いもんでもいにこうよ。俺が奢るからさ」
私が助席に戻りながら言うと、父はニッと笑い、く刻まれた目尻の皺を崩した。
「アホ言え。おが奢るなんぞ、百いわ。……わしが、とびきりのカツ丼奢ったる」
軽トラのアクセルが踏み込まれ、ボロいエンジンが気よい音をてて加速していく。
吹き抜ける朝が、助席のシートの奥に染み付いていたの湿った匂いを、綺麗さっぱりと青空の彼方へと吹きばしていった。