"毎月100円を振り込む名医の20年" 第15話
父は淡々と続けた。
「あのはな、母さんがんだ、わしが刑務所をてから、この軽トラで集めた段ボールと聞で、全部買い戻したんや。千円、千円……、爪にを灯してな。あの事故の被害者の女の子の座へ、毎欠かさず、匿名の治療支援として全額を振り込み終えたんや。先の端数で、ちょうど千百万円になった」
仁の呼吸が、完全に止した。
「ば……馬鹿な……。あんなを、おのようなゴミ拾いが……!?」
「ゴミ拾いやからこそ、できたんや」
父は力く言い放った。 そのの甲には、無数の擦り傷と、古の繊維でくなった輪のようなタコが刻まれている。
「すすって、を油まみれにして稼いだやからこそ、円の嘘もない。……あんたが名誉や位を守るために積みげた砂のとは、みが違うんや」
「違う! 私は……私は域医療を守るために!」
仁は取り乱し、タキシードの胸元を掻きむしった。
「あの夜、私が逮捕されていれば、病院は潰れていた! 何百もの職員がに迷い、救えるはずの命が救えなくなっていたんだ! 私の選択は正しかった! 社会な損失を最限に抑えるための、理な判断だったんだよ!」
「お父様、もうやめて」
綾乃の声が、のたい空を切り裂いた。
彼女はにしたバインダーを仁の元のアスファルトへ投げ捨てた。
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パラパラと散らばった類。 それは、崎記病院の過にわたる、薬品の正仕入れと裏作りのき記録だった。
「あなたが守りたかったのは、病院でも職員でもない。自分のプライドと、理事の子だけでしょ」
綾乃の目から、筋の涙が零れ落ちた。 だが、その表は徹そのものだった。
「さっき、医師会の理事たちと顧問弁護士に、この類の写しと、あのカセットテープの音声データを斉送信したわ。……の朝には、マスコミ各社にも届くように配してある」
「あ、綾乃……!? お、何を……自分のを破滅させる気か!?」
「なんて、とっくに破滅していたのよ!」
綾乃が初めて絶叫した。 その声は、のコンクリート壁に反響し、幾にもなって仁のを貫いた。
「あのファミレスで、内さんのお父様の作業着を『腐ったの匂いがする』ってあざ笑った……私、お母様とお父様の顔を見て、の底から吐き気がした! のをで踏みにじって、その犠牲のに咲いたを誇らしげににつけて……そんな活のどこに、守るべき価値があるのよ!」
仁のから、完全に力が抜けた。 ドサリ、とタキシードの膝がアスファルトに落ちる。 最級のが、搬入の油混じりのに濡れて黒く染まっていく。
「お、終わりだ……。私の……私の名誉が……理事が……」
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仁はのに両をつき、虚ろな目で宙を見つめた。 その姿は、かつて父を「科者のような貌」と切り捨てた傲な名医などではなかった。 ただの、自らが紡いだ嘘のみに押し潰された、れな老に過ぎなかった。
父は、膝をつく仁を見ろした。 その瞳には、侮蔑も嘲笑もなかった。 ただ、い、い憐のだけが浮かんでいた。
父は胸ポケットから、もう枚の切れを取りした。 それは、の備のき伝票の原本だった。
『スバル・サンバー マフラー亀裂溶接修理式 完』
父はその伝票を、仁の濡れたのひらの横に、そっと置いた。
「崎先。……来からの百円は、もうりまへん」
父は静かに背を向けた。
「わしはも、朝から軽トラをらせます。町を回って、誰かが捨てた段ボールを拾って、自分ので飯をう。……それが、わしのや」
「待ってくれ……修……! 頼む、告発を取りげてくれ! ならいくらでもす! 頼むから……!」
仁がをねげながらい寄ろうとしたが、父は度も振り返らなかった。
軽トラの運転席のドアが、バタンと閉まる。
セルモーターが回り、マフラーから力い排気音が響いた。 父はギアをバックに入れ、ベンツのから軽トラを移させた。 のがかれたが、仁のベンツがそこを通ることは、もう度となかった。
助席に乗り込んだ私に、綾乃が窓のからさくをげた。
「……拓さん。お父さんを、切にしてあげてね」