"毎月100円を振り込む名医の20年" 第14話
煙がもうもうとのコンクリート壁に吹き付けられた。
ギアをローに入れ、父は軽トラをわずかにさせた。 駐から般へ通じる、唯の専用用スロープ。 そのを完全に塞ぐ形で、軽トラを横付けにしてさせる。
それからわずか秒。
暗いの奥から、滑らかなの筋が伸びてきた。 崎仁を乗せた、あの黒塗りのメルセデス・ベンツだった。
ベンツの運転が、突如としてを塞いだ汚い軽トラに気づき、慌ててブレーキを踏んだ。 キィッ、という質なブレーキパッドの摩擦音が響き、ベンツのフロントノーズが軽トラの赤錆びたあおり板のわずかセンチで静止する。
ベンツの運転席から、濃紺の制を着た専属ドライバーがびしてきた。
「おい、君! ここは関係者以ち入り禁止だぞ! こんなボロをどこにめているんだ、くどかしなさい!」
運転が鳴り声をげ、軽トラの運転席のドアを乱暴に叩こうとした。
その瞬、ベンツの部座席の窓が、音もなくスルスルとがった。
現れたのは、最級のタキシードにを包み、胸元に名誉理事の赤いリボンを挿した崎仁だった。 そのえられた髪と傲な顔ちは、階での栄の余韻に酔いしれ、潮していた。
「何を騒いでいる、運転。
広告
……警察を呼べばいいだろう」
仁はそうに言い捨て、線をへ向けた。 そして、軽トラの運転席からりてきた男の姿を捉えた瞬、その表が完全に凍りついた。
ドアがギイッとく。
古びたサンダル履きのが、のアスファルトを踏みしめた。 油と屑の匂いを全に纏った内修が、背筋をまっすぐに伸ばし、ベンツの部座席の目のにっていた。
「……修」
仁の喉の奥から、絞りすような掠れ声が漏れた。 顔面から急速に血の気が引き、陶器のようなさに染まっていく。
「な、なぜここに……貴様、何の真似だ!」
仁はドアをけ、へびした。 周囲を用く見回し、運転に鋭い線を送る。
「をバックさせろ! 別のからる!」
「無駄ですよ、崎先」
背から、澄んだ、しかし氷のようにたい声が響いた。
歩者用の非常階段の鉄扉をけて現れたのは、綾乃だった。 黒いシンプルなフォーマルドレスを着た彼女のには、革張りのなバインダーが握られていた。
「綾乃……!? お、どうしてこんなところに……のパーティーはどうした!」
「裏の非常も、管理に頼んでシャッターをろしてもらったわ」
綾乃は父親の揺を瞥もせず、淡々と告げた。 その線には、かつて父親に向けていた敬のなど微も残っていなかった。
「もう逃げられないわよ、お父様」
広告
「お、何を言っているんだ! 気でも狂ったのか!」
仁が激昂して叫んだその、父・修が歩、に踏みした。
作業着のポケットから取りされたのは、あの緑の通帳だった。 父は何も言わず、その通帳を仁の胸元へと突きした。
「崎先。……これをお返しに来ました」
仁の瞳が、狂気じみた痙攣を起こした。
「そ、それを……なぜおが……」
「、毎。きっちり百円ずつ、ご苦労なことでしたな」
父の声は、驚くほど静かだった。 りも、憎しみも、復讐の昂ぶりすらもそこにはなかった。 ただ、という途方もない歳を、すべてみ込んで化させた岩のように揺るぎない響きがあった。
「あんたはな、この百円でわしを縛り首にしとるつもりやったんやろ。『内はまだきとるか』『警察に駆け込んどらんか』『底辺でいつくばっとるか』……毎毎、パソコンの画面ので怯えながら、この百円を振り込んどったんや」
「黙れ……黙れッ!」
仁は叫び、通帳を払い落とそうとした。 だが、その震えるは、父の腕に触れることすらできなかった。
「だがな、先。縛られとったんは、わしやない。あんた自や」
父は通帳をいた。 最のページ。 今のに印字された「100」の数字の横に、先ほど内で父が油性ペンで太くき殴った文字があった。
『完済』
「な……んだと……?」
仁の唇が、刻みに震えた。
「、母さんの術代として、あんたが度は振り込んで、から脅し取っていった千百万円」