みかん小説
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"毎月100円を振り込む名医の20年" 第11話

綾乃の呼吸が止まった。 瞳孔がき、通帳を握る刻みに震え始める。

「母さんは……親父が留置に入っているんだ。術は受けられなかった。おの父親は、母さんがんだ途端に約束したを回収し、親父を科者として刑務所に送り込んだんだ。……そして所した親父に、、毎に百円を振り込み続けた。座がきてるか、親父が野垂れんでないか、復讐に来ないかを監するためにな」

「嘘よ……」

綾乃の唇から、細い糸のような否定が漏れた。

「そんなの、嘘に決まってる……! 父は、域医療のためにを捧げてきたよ! 夜にだって患者のために病院へ駆けつけて……誰からも尊敬されて、来には名誉理事になるのよ!? そんなが、ひき逃げなんて……代わりなんて、するわけがない!」

「嘘だとうなら、これを聞けよ」

私はポケットからカセットテープを取りし、テープレコーダーに再び装填した。 巻き戻しボタンを押し、キュルキュルという甲い巻き取り音が夜の内に響く。

止ボタンを押し、再ボタンを押し込んだ。

カチリ。

スピーカーから、激しいの音。 そして、あの男の、泣き叫ぶような醜怪な肉声が流れした。

『無理だよ修君! 私には病院がある! 来には院を継ぐんだ! ここで科がついたら、私のは終わりなんだよ!』 『女の子は……ねられた子は、きてるんですか』 『らん! 逃げてきたんだ! のミラーが割れて、ボンネットが凹んで……息はしていなかったかもしれない!』 『千百万だ! いや、千万す! 君が軽トラでやったことにしてくれ!』

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綾乃の顔から、完全に表が抜け落ちた。 血の気が引くというレベルではない。 まるで、顔面全体に膏を塗り固められたかのように、く、く、固膜していた。

テープから流れる声は、違いなく彼女が聞き続けてきた、父親の声だった。 いつも斎で、あるいは卓で、穏やかに「の命を預かるみ」を説いていたあの男の、剥きしの保と卑劣さ。

「あ……」

綾乃のから、空気が抜けるような微かな声が漏れた。 彼女は持っていた通帳を取り落とした。 緑の冊子が、助席の汚れた元、と埃の混ざるフロアマットのにバサリと落ちた。

した……」

綾乃が、糸の切れた操り形のように呟いた。 その目は、目のの私でもテープでもなく、を見つめていた。

「あの……私、歳だった。夜に、父がずぶ濡れで帰ってきたの。ガレージで、父が必になって、いベンツのフロントをタオルで拭いてた。側のサイドミラーが割れてて、赤い……サビみたいな汚れがついてて……」

彼女の肩が、激しく波打ち始めた。

「私が見ているのに気づいた父は、普段絶対にあんな鳴り声をげないのに、私の首をあざができるほど掴んで……『おは何も見ていない、部に戻れ』って……」

綾乃は両で顔を覆った。 指の隙から、ぼたぼたと涙が零れ落ちる。

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それは、昼のファミレスで見せた形式な涙ではなかった。 自分が育ってきた庭の台が、の男の血塗られた保と、もうの男の踏みにじられたに築かれていたことをったの、魂の崩壊だった。

「私の……私の着ていたも、通わせてもらった私の学費も、全部……その女の子の血と、あなたのお父さんを犠牲にしてに入れたものだったの……?」

私は何も言えなかった。 彼女を責める言葉は、喉元までかかっていた。 おの母親は、父の作業着の匂いを「腐ったの匂い」と嘲笑った。 おの父親は、父を「科者のような貌」と切り捨てた。 だが、その罪の守閣で、何もらずに清純な令嬢として育てられていたこの女もまた、あるではあの怪物の被害者だったのかもしれない。

「……拓さん」

綾乃が顔をげた。 涙でマスカラが崩れ、頬を黒い筋が汚していた。 だが、その瞳には、先ほどの絶望とは違う、たく研ぎ澄まされたが灯り始めていた。

「このテープ、父には渡さないで」

「当たりだ。渡すわけがない」

「そうじゃない」

綾乃は私の腕を掴んだ。 その力は、驚くほどかった。

「警察に持ってっても、効で払いにされるだけよ。

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