"毎月100円を振り込む名医の20年" 第10話
コートのポケットから漏れるバイブレーションのい唸り。 綾乃は無なつきで端末を取りし、画面を瞥した。
発信者名は見えない。 だが、彼女は通話ボタンを元に当てることもせず、ためらいなく通話を切断した。 そのまま源ボタンを押しし、画面のかりを完全に落とす。
父親からの連絡を、切ったのだ。
綾乃は再び窓ガラスに線を戻すと、ドアノブにをかけた。 ガチャリ、と属のラッチがれる音が静まり返った町に響く。
臓がねがった。 鍵をかけていなかった。
ギギッ、と油の切れた蝶番が軋み、夜のたい気が内に流れ込んできた。 古の埃と、彼女の纏う価なホワイトリリーのが、助席の狭い空で暴力に混ざりう。
「……いるんでしょ、拓さん」
く、温度のない声だった。
観した私は、ゆっくりと体を起こした。 シートのフレームを掴み、助席の座面から顔をげる。 暗がりの、至距で綾乃の線とぶつかった。
彼女の瞳は、見かれていた。 りでも、しみでもない。 何もに閉じ込められていたが、ようやくの世界の亀裂を見つけしたのような、乾いた、底れない飢餓がそこに宿っていた。
「どうして、ここが……」
「父ののGPSを見てたの」
綾乃は淡々と言った。 ドアを半きにしたまま、を乗りすようにして私を見ろす。
広告
「父が夜に自宅をびして、この界隈にをらせた。……あのが、自分の社会位を危険に晒してまで直接くなんて、普通じゃない。絶対に何かがあるとった」
「綾乃、お……」
「昼のこと、謝りに来たわけじゃないわ」
彼女は私の言葉を無慈に切り捨てた。
「あのファミレスでの茶番。母の執拗な除菌シート、父の『科者』っていう侮辱。……あれ、自然すぎたとわない? うちの両親は確かに傲よ。でも、見ずらずのの活準がいからって、わざわざあそこまで徹底に踏みにじるような品な真似は普段はしない。あのたちが本当に見している相には、もっと淡で、無関で、事務に縁を切るはずなの」
彼女の指先が、け放たれたドアの窓枠を爪でカリカリと引っ掻いた。
「なのに、あのの父は怯えていた。必に相を汚物扱いすることで、自分自が保っている境界線を守ろうとしているように見えた。……拓さん。あなたの父親と、私の父親は、昔からりいだったんでしょ?」
喉の奥が引きつった。 彼女は、気づいている。 すべてをっているわけではないが、この族のに横たわる異常な歪みに、本能で勘づいていたのだ。
私はポケットののテープを、無識に指先で確かめた。 これを彼女に聞かせるべきなのか? 彼女にとって、崎仁は誇りい名医であり、する父親だったはずだ。
広告
その父親が、にを撥ね、貧しい員に罪を擦り付け、挙句の果てに毎百円の送で監し続けていた怪物だったとれば、彼女の世界は完全に崩壊する。
だが、迷っている暇はなかった。
「……これを見ろ」
私は軽トラのグローブボックスから、先ほど父がゴミ袋に捨てようとした、あの「ぱるる」の通帳を取りした。 父がハサミを入れるに、私が咄嗟に回収していた緑の冊子。
綾乃の目のに、それを突きした。
「何、これ……?」
「けてみろよ。おの好きな、潔で派な崎仁先の、の記録だ」
綾乃は眉をひそめながら、袋をしたい指で通帳を受け取った。 軽トラの井にある、暗いルームランプを点灯させる。 オレンジがかった頼りないので、彼女の線が、印字されたのインクの列を辿っていく。
100 シラサキ ジン 100 シラサキ ジン 100 シラサキ ジン……
ページをめくる彼女の指先が、次第に張り、くなっていく。 ページ目、ページ目、そして最の今の。
「百円……? 何なの、これ。なんで父の名が……」
「確認だよ」
私はたく言い放った。 自分の声が、自分でも驚くほどく沈んでいた。
「、おの父親が酒運転で学の女の子をねばした。逃げ込んだ先が、当をやってたうちの親父のところだ。臓病でにかけてた母の術代と引き換えに、親父に代わりを頼んだんだよ」