みかん小説
本棚

"毎月100円を振り込む名医の20年" 第9話

私はテープレコーダーの蓋をけ、震える指でカセットテープを装填した。 再ボタンを押そうとして、指が止まる。

池が切れているかもしれない。 いや、械だ。くのか?

恐る恐る、再ボタンを押し込んだ。

カチリ。

乾いたプラスチックの作音。 さなモーターが、ウィーンという微かな唸り声をげた。 いた。

イヤホン端子に、自分のスマートフォンの線イヤホンを差し込み、に当てた。

サーッ……という、いテープヒスノイズ。 の音。 激しいが、トタン根を叩く凄まじい轟音が聞こえてくる。

そして、男の荒い息遣い。

『――先、落ち着いてください。警察にくんや』

父の声だった。今よりも歳若い、張りのある、しかし切迫した声。

『無理だ……無理だよ修君! 私には病院がある! 来には院を継ぐんだ! ここで科がついたら、私のは終わりなんだよ!』

取り乱し、泣き叫ぶような男の声。 崎仁だ。 昼の尊な態度とは似ても似つかない、惨めに命乞いをする卑屈な声。

『女の子は……ねられた子は、きてるんですか』

らん! 逃げてきたんだ! のミラーが割れて、ボンネットが凹んで……息はしていなかったかもしれない! 頼む、修君! 君の奥さんの臓の術、アメリカから呼ぶ専医の費用、全額私が持つ! 千百万だ! いや、千万す! 君が軽トラでやったことにしてくれ! 君のも、古を満載にしていれば同じような衝撃になるはずだ!』

広告

『そんなこと……できるわけないやろ!』

『奥さんを見殺しにする気か!? 君にあの術代が払えるのか!? 君が刑務所に数入るだけでいいんだ! 所した活も、私が保証する! 頼む……頼む修君、私を助けてくれ!!』

々しい、取引の瞬。 良で買い叩き、代わりに差しさせる、悪魔の契約の現だった。

イヤホンから流れる声を聞きながら、私の目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。 父は、このテープを持っていたのだ。 いつでも崎を破滅させられるこの証拠を握りしめながら、なぜ、沈黙を守り続けたのか。

『……所した活も、私が保証する』

仁のその言葉が、の奥で虚しく反響した。 の保証。 それが、あの毎の「百円」だったのだ。

「……許せない」

私はカセットテープを取りし、自分のポケットにくねじ込んだ。

そのだった。

カツン。

軽トラの、すぐ真横のアスファルトで、い靴音が響いた。

臓が止まるかとった。 私は息を殺し、助席の座席のを屈めた。

窓のに、っていた。 灯のに照らされた、細いシルエット。 崎仁ではない。

女だ。

のトレンチコートを着て、両をポケットに突っ込み、じっと軽トラの内を覗き込んでいる。

綾乃だった。

なぜ、こんなに。 綾乃は無表のまま、軽トラの助席の窓ガラスに顔をづけていた。

広告

その瞳は、昼ファミレスで見せた迷いも優しさも完全に消え失せ、たく、異様なを放っていた。

彼女のがゆっくりと持ちがり、窓ガラスを、コン、コン、と指先で叩いた。

静まり返った夜のに、その乾いた音が、あまりにもに響き渡った。

コン、コン。

いガラス越しに鳴るその乾いた音は、蓋骨の内側を直接ノックされたかのように響いた。

に沈む助席の元で、私は膝を抱え、肺の空気をすべて吐きさないよう奥歯を噛み締めた。 ポケットに突っ込んだカセットテープの角が、太ももの付け根にい込んでいる。

(なぜ、綾乃がここにいる……?)

父の仁がった直だ。 父親から指示されてを追ってきたのか? それとも、父親がここへ向かったのをって、単独で現れたのか。

窓のつ綾乃は、ガラスの縁に指先を添えたまま、じろぎひとつしなかった。 灯のオレンジが、彼女の濡れたような黒髪と、トレンチコートの肩をぼんやりと照らしている。 昼、ファミレスで母親のろに隠れ、父の作業着の汚れから逃げるように線を泳がせていたあの気な婚約者の面は、どこにもなかった。

首をわずかに傾げ、暗い内の隅々までスキャンするように、その瞳がく。

その、彼女のスマートフォンが微かに震えた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: