みかん小説
本棚

"毎月100円を振り込む名医の20年" 第7話

ガチャン、とい鍵の音が響く。

から、ドンドンと戸を叩く音が数度続いた。 だが、やがて級セダンのドアが閉まる鈍い音がし、急発するタイヤのスキール音が夜のへとざかっていった。

静寂が戻った玄関で、私と父は息を潜めてっていた。

散らばった万札。 カセットテープ。 のひき逃げ事故。 そして、効。

点と点が、恐ろしい絵を描いて繋がり始めていた。

「……父さん」

私は震える声で呟いた。

「父さんが刑務所に入った事故……本当は、あの男がやったのか?」

父は答えなかった。 持っていたバールをの隅に静かに置くと、力なくそのに座り込んだ。 丸まった背が、刻みに震えている。

らんでええ。……おは、らんでええんや」

らなきゃいけないんだよ!」

私は父のに膝をついた。

「母さんがんだのも、僕らがこの所からろ指を指されて爪にを灯すようにきてきたのも……全部、あの男の代わりだったからなのか!? 父さんは、あいつの罪を被って科者になったのか!?」

父は顔を覆った。 指の隙から、濁った、嗚咽のような吐息が漏れた。

「……母さんの、術代やったんや」

その言が、私のを殴りつけた。

「あの、母さんの臓の術……保険の利かん最の治療を受けるには、どうしても千百万のが必やった。どこのも、町の鉄所を畳んだばかりのわしには銭も貸してくれんかった。

広告

……そんなに、あの男が事故を起こしたんや」

父の声は、乾いた砂のように崩れ落ちていった。

平成たい夜だったという。 当、義父の病院を継ぐ直だった崎仁は、酒に酔った状態でを運転し、塾帰りの女子ばした。 現から逃した仁が駆け込んだのが、当、廃品回収の倉庫として使っていた父の作業だった。

代わりになってくれ。君の奥さんの術代は、全額私が裏からす。警察には、君が軽トラでねたと証言してくれ』

仁は座して懇願したという。

だが、運命は残酷だった。 父が警察にし、勾留されているに、母の容態は急変した。 術を受けるもなく、母は息を引き取った。

は……支払われなかったのか?」

私の問いに、父は首を横に振った。

「千百万のは、弁護士を通じて度は渡された。だが……母さんがんだ、あの男の弁護士が乗り込んできて、こう言うたんや。『妻がんだ以、このを受け取る正当な理由はない。返還しなければ、代わりをした恐罪で告発する』とな」

(……なんなんだ、それ……)

悪寒で、全の毛穴から脂汗が噴きした。

「わしは刑務所ので、母さんの骨も拾えんかった。に塀を、残っていたのは……世からのい目と、科者の烙印だけやった。

広告

崎は約束通り病院の院に収まり、何わぬ顔で名士としてきとった」

「じゃあ……あの百円はなんなんだよ!?」

私は叫んだ。

「毎に振り込まれる、あの百円は!」

父はゆっくりと顔をげた。 その瞳には、絶望の果てに澱のように溜まった、底れないが宿っていた。

「……確認や」

確認……?」

「毎、あの男はネットバンキングでわしの座に百円を振り込む。もし、わしがんだり、座を解約したりすれば、送エラーがる。……送が成功しとる限り、あの男はできるんや。『内修はまだきていて、座もそのまま、どこにも逃げさずに底辺をい回っとる』とな」

喉の奥が、ヒュッと鳴った。

百円。 それは活の援助などではない。 首輪だったのだ。 崎仁が、自分の犯した過霊をから監し続けるための、酷極まりない子の首輪。

「あの男はな、わしが復讐に来るのを、怯え続けとるんや。だから毎、百円という屈辱を送りつけて、わしのを確かめとる。……そして、わしがんだ瞬、事故の真実は完全にに葬られる」

「テープは……? さっきあいつが言ってた、カセットテープって何なんだ?」

私の問いに、父はを閉ざした。 がり、居の奥へと歩きす。

「もう寝ろ、拓。……の朝には、全部忘れろ」

「父さん!」

襖がピシャリと閉ざされた。

それ以、父がくことはなかった。

私は、暗い玄関に残された。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: