"私の命を八千万円にした夫の末路" 第11話
「……見たんだな、真由」
その声には、もう先刻までの気な夫の響きは微も残っていなかった。 追い詰められた獣の、乾いた音。
「何を、かしら」
私はボイスレコーダーをポケットに滑り込ませず、のひらに乗せたまま、胸のさに掲げた。
「これのこと? それとも、の輪に細されたブレーキホースのこと?」
修の喉仏が、ひくりと痙攣した。
「……返せ」
「返したら、どうするの? 私をこのに乗せて、箱根のへ送りすの? それとも、ここでその鉄の棒で私のを割って、庫の階段から落ちた事故にでも見せかける?」
「黙れ!!」
修が声をげ、タイヤレバーを振りげた。
だが、その元がわずかに揺らいだ。 彼の線の先――私がに持っていたスマートフォン。 画面の赤く点滅するランプが、暗い庫ののでっていた。
「かないで、修さん」
私は極めてややかに、滑らかに告げた。
「今、このスマホは警察の通信指令と繋がってるわ。 位置報も、音声も、すべてリアルタイムで送信されてる。 あなたがその棒を振りでも振りろせば、過失致の偽装作はすべて消しんで、ただの現犯殺になるわよ」
修の腕が、空でピタリと止まった。
「……う、そだ」
「嘘だとう? 王子のオートパーツ解体業。 昨の夜分、あなたが千百円で買った劣化ブレーキホースの領収。
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それから、農協の通帳の残万千百円。 、来週曜の抵当最終弁済期、千百万円」
修の顔から、急速に気が抜け落ちていく。
「な、なんで……おがそれを……」
「レナさんの井友カード百万、楽カード百万の督促状。 そして、お義母さんが斎の机に隠していた、私の保険千万円の配分メモ」
私は歩、へ踏みした。
怯えてずさったのは、鉄の棒を持った夫の方だった。
「全部、写真に撮ってクラウドに同期してあるわ。 私の実の弁護士と、所轄の警察署の活全課、それから損害保険協会の正請求告発窓に、タイマー送信のセットも完してる。 私が今朝までに所定の解除パスワードを入力しなければ、族全員の座記録とあの録音データが、公関へ斉に届く仕組みよ」
「ひっ……!」
い鳴をげて、修のからタイヤレバーが滑り落ちた。
カィン、とい属音がコンクリートに甲く響いた。
「ま、真由……頼む、聞いてくれ! 俺は、俺は反対したんだ! 母さんとレナが……あいつらが、このままだと全員で首を吊るしかないって、俺を脅したんだよ!」
無様な膝が折れ、修はそのに両をついた。 がね、スラックスの膝を汚す。
「おをしてないわけじゃないんだ! でも、会社が……佐伯のが潰れそうだったんだ! 頼む、データを消してくれ! やり直そう、真由! 俺、今からを入れ替えて、母さんとも縁を切るから……!」
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元にすがりつこうとする夫の指先。 私はそのを、履き古したスニーカーの底で、容赦なく踏み躙った。
「ぎゃっ!」
「触らないで」
私は見ろした。 もの、私が「守らなければ」「支えなければ」と信じ込み、のパート代を差しし、たい噌汁をすすりながら仕えてきた男の、あまりにれで醜悪な頂部を。
「あなたがさっき、録音ので何て言ったか覚えてる? 『真由、悪くうなよ。おの代わりなんて、さえあればいくらでもに入るんだからな』 ……それが、あなたの本音でしょう」
「ち、違う、あれは母さんに調子をわせただけで――」
「いいえ、違わない」
ガラガラッ!
激しい音をてて、庫のトタンの引き戸がねがった。
煙の向こうから、傘も差さずにび込んできたのはだった。 髪を振り乱し、顔を傷だらけにしたレナが、そのろから追うように転がり込んでくる。
「修! 何をもたもたしてるのよ!」
は狂乱した目で叫んだ。
「その女をくに乗せなさい! レナが警察に話するって暴れて……もうがないのよ! く、く事故を起こさせないと、曜にを取られちゃうのよ!!」
「ママ、もうやめなさいよ!」 レナがろからのを引っ張る。 「あんたたちの計画はバレてんのよ! 兄ちゃん、そのボイスレコーダーをく奪いなさいよ!」