"私の命を八千万円にした夫の末路" 第7話
修の、掠れた声。
「あんた、こんなに何してんのよ。はいんでしょう」
「喉が渇いてさ。……それと、斎の戸がしいてるような気がして」
「気のせいよ。夕方、私が換気のためにけたんだから。ほら、く寝なさい。事ななんだから、しっかり体を休めておかないと」
『事な』。
のその言葉の奥にある、毒のようなみに、私の背筋が凍りついた。
「……ああ。わかってるよ。おやすみ、母さん」
つの音が、それぞれの部へと戻っていく。 ドアが閉まる音が度、なって響いた。
のが、再びのような静寂に沈む。
私は、机ので丸めた体をゆっくりと起こした。 指先がたく張り、うまくかない。
だが、まだ終わっていない。
番肝なもの。 物理な「証拠」を、この目で確かめなければならない。
私は斎の引き戸を、音をてずに数センチだけけ、廊へと滑りした。
勝のサンダルを突っ掛け、へる。 夜のたい空気が、照った頬を突き刺した。
の裏にある、トタン根の独庫。 錆びついたシャッターは、からセンチほどいたままになっていた。
修が「備した」と言っていた所。
私はをかがめ、シャッターの隙から庫の暗がりへと潜り込んだ。
◇
庫のは、カビと古いオイルの臭いが充満していた。
央に鎮座する、私のの軽自。
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灯のが、窓の隙から差し込み、く埃をかぶったボンネットを鈍く照らしている。
私はスマートフォンのライトを極限まで絞り、輪のタイヤハウスへと向けた。
たいコンクリートの面に、膝をつく。 が汚れることなど、どうでもよかった。
タイヤの奥、サスペンションの隙に首を突っ込む。
ブレーキキャリパーから伸びる、黒いゴム製の油圧ホース。 ブレーキペダルを踏んだ、オイルの圧力をブレーキパッドに伝える、命の綱だ。
ライトのを当てる。
「……っ」
息が止まった。
ホースの表面。 ゴムの表面が、自然に削り取られていた。
経劣化なんかじゃない。 ニッパーかヤスリのような鋭利な具で、側の保護ゴムが削られ、内部の繊維層が剥きしになっている。
そして、その剥きしになった部分に、細い針が執拗に巻き付けられていた。
がれば、サスペンションがに揺れる。 ハンドルを切れば、タイヤと緒にホースがく。
その度に、巻き付けられた針が、剥きしになった繊維をしずつ、ヤスリのように削り取っていく構造だ。
平坦なを速でっているうちは、まだ持つかもしれない。 だが――。
り坂。 カーブの。 何度も、くブレーキペダルを踏み込んだ瞬。
皮枚になったゴムホースは、内部からの圧に耐えきれず、気に破裂する。
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オイルが吹きび、ブレーキペダルはまでスカスカと空を切る。 何百キロという鉄の塊が、何の抵抗もなく加速し、ガードレールを突き破るのだ。
あのレシートにかれていた「古・劣化品」。 わざわざ傷んだ部品を取り付け、さらに細をして、の「自然破断」を偽装したのだ。
ホースの継ぎ目の属部分から、滴。
タプン、と。
黒いフルードが、面のコンクリートに垂れ落ちた。 まだ乾いていない、々しい油の染み。
これだ。
これが、の朝、私を殺すはずだった凶器だ。
私はスマホを構え、その削り取られたホースと、巻き付けられた針、そして面に垂れたオイルの染みを、あらゆる角度から画と写真に収めた。
ズームにして、具でつけられた自然な傷跡を鮮に記録する。
証拠は、すべて揃った。
保険証券。 指紋を偽造された任。 劣化部品の購入レシート。 借の弁済期と、族会議の配分メモ。 そして、この細されたブレーキホース。
ちがった、膝がガクガクと震えていた。 だが、それは恐怖による震えではなかった。
確信と、徹な殺。
この連は、私をとして見ていなかった。 の私の労働も、も、笑顔も、すべてこの千万円の肉塊へと変換するための振りに過ぎなかったのだ。
庫をて、再び夜のりた庭を横切る。
の空が、ほんのしだけ、群青から鉛へと変わり始めていた。