"私の命を八千万円にした夫の末路" 第4話
その言葉を待っていたかのように、がを乗りしてきた。 その顔には、これまでに見たこともないような、柔らかな笑みが張り付いていた。
能面のような、完璧な作り笑い。
「そうよ、真由さん。のにあの古いに乗るのは配だわ。だからね、今夜のうちに修にの調子を見させておいたのよ」
「……え?」
私の臓が、ドクンと嫌な音をてた。
「修さんが、私のを?」
「ああ」 修が慌ててを挟む。
「ほら、おの、最ブレーキの効きが甘いって言ってただろ? だから、さっき帰ってきた、庫でちょっと見ておいたんだ。オイルの量とかさ」
嘘だ。
私は、ブレーキの効きが甘いなどと、修に度も言ったことはない。
先、ガソリンスタンドで空気圧を見てもらったも、員から「ブレーキパッドもタイヤも、まだまだ丈夫ですよ」と言われたばかりだった。
喉の奥に、苦いものがせりがってくる。
「……そうなの。ありがとう。でも、暗いのに変だったでしょう」
「い、いや、庫の灯をつければ見慣れてるから平気だよ。、でスリップしたら危ないからな。俺がの朝、もう度エンジンをかけて、しっかり運転しておいてやるよ」
修の目が、泳いでいる。 額には、脂汗が滲んでいた。
彼がに持った箸の先が、チチチ、と刻みに震え、茶碗の縁に当たってさな音をてていた。
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「よかったじゃないの、真由さん。修は優しいわねえ」
が、お茶をすすりながら目を細めた。 その瞳の奥には、温度がまったく宿っていなかった。
「おが事故にでも遭ったら、うちとしても困るからね。……本当に、困るのよ」
「そうだよ、真由さん。事な体なんだからさ」
レナが、ニヤニヤしながらスマホを弄りつつ言った。 その元では、先ほどデパートで買ってきたばかりのブランド財布が、蛍灯のを反射して品にっていた。
全員の線が、私に集まっていた。
優しげな言葉の檻。 だが、その檻の隙から覗く彼らの瞳には、飢えた獣のような、酷な執着と期待のがギラギラと渦巻いていた。
私は、膝ので握りしめた拳を、爪がのひらにい込むほどく握りしめた。
痛みが、かろうじて私の理性を繋ぎ止めていた。
「……ありがとう、みんな。は、気をつけて運転するわね」
私が静かに微笑むと、は斉に堵の息を漏らした。 その呼吸のなりすら、私には首を絞める縄のようにじられた。
夕が終わり、片付けを終えた。
私は、呂へ向かった。 脱所の鍵をしっかりと閉め、洗濯のフタのに置いた自分のバッグをける。
底から取りした、あの枚の。
【搭乗者保険:千万円】
【受任者・全権代理:佐伯修】
そして、修が言った言葉。
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『暗い庫で、ブレーキを見ておいた』
『の朝、もう度エンジンをかけて、運転しておいてやる』
洗面台の鏡に映る自分の顔を見る。 青く、唇のを失った女が、信じられないものを見るような目をしてち尽くしていた。
殺される。
こののに。 私が信じようとしていた夫に。 尽くしてきた義理の族に。
あのボロごと、のので、ゴミのように始末されるのだ。
千万円の、借返済の具として。
「……冗談じゃない」
唇から、掠れた声が漏れた。
涙はなかった。 ただ、胃の底から、ドス黒い氷のような気が、全の血管を駆け巡っていくのが分かった。
私は、絶対になない。
あんたたちの都で、殺されてたまるものですか。
私は類を再びく隠し、脱所のドアノブにをかけた。
そのだった。
カチャリ。
側から、ドアノブが静かにろされる触が伝わってきた。
誰かが、ドアの向こうにっている。
「……真由? 入ってるのか?」
修の声だった。 ドアの隙から、彼のく湿った吐息の音が聞こえてきた。
臓が、喉からびそうになるのを、私は必で押し殺した。
ドアノブにかかった修の力で、ラッチがさく軋んだ。
私は息を止め、胸元を両で押さえつけた。 臓の鼓が、脱所のい板のドアを突き破ってまで響いているんじゃないかとえるほどねがっている。
「……真由? 聞こえてるか?」
声のトーンはい。 苛ちを押し殺したような、あるいは何かを探り当てるような湿り気。