みかん小説
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"10年逃亡した父の未開封400万" 第11話

急に、の狂ったような女が鳴り込んできてよ」

の目が、過の忌まわしい記憶を呼び覚ますように濁った。

「『うちの夫を誑かした棒猫!』って叫びながら、のグラスを全部叩き割って、陽子ちゃんの髪を引っ張り回してな。止めに入った俺たちまで突きばされたよ。その女の連れいの、顔の赤いガタイのいい男がに見張りでっててよ……警察を呼ぼうとしたら、そいつに携帯を取りげられたんだ」

——顔の赤い、ガタイのいい男。 植田だ。

「女は陽子ちゃんのたぶを引きちぎる勢いで殴りつけて、庫にあった売まで奪い取ってったよ。『慰謝料として回収する』って喚いてな。陽子ちゃんはそのまま血まみれで倒れて、救急で運ばれたんだ」

のアスファルトを指差した。

「あの鳴り込んできた女が落としていったんだ。物の、真珠のピアスをな。片方だけ、々に踏み潰されて転がってたよ」

私のポケットのにある、砕けた真珠のピアス。 それは、母が父に奪われたものではなかった。 母自が、このスナックに乗り込んで病の女性をリンチした際に、自ら落としたものだったのだ。

父は、からその現り、に落ちていた母のピアスの残骸を拾い集めた。 妻の犯した恐ろしい暴力の証拠として、自分の全靴のに隠していたのだ。

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「……じゃあ、陽子さんは、そのどうなったんですか?」

私の震える声に、主は寂しそうに目を伏せた。

「熊本の実に引き取られていったよ。親戚のツテで、療養所に入ったって聞いた。で……に、くなったよ。葬式にも誰もけなかったがな」

父と逃げたはずのは。 父と緒にを奪って消えたはずの女は。

最初から、父と逃げてなどいなかった。 のあの、血まみれになって故郷へ制送還され、病院のベッドで、息を引き取っていたのだ。

父の「倫逃」は。 すべて、母が作りげた、完璧な虚構だった。

夫を病に束縛し、障害を負った夫が自分かられようとしたことに狂乱し、無関係の病気の女性を棒猫に仕げ、町内方につけて被害者を演じ続けた。

そして——。

「健さんは、どこへったんだい?」

が、タバコのを落としながら、ふと尋ねてきた。

「あの真面目な旦さんだよ。を悪くしてから、陽子ちゃんのでウーロン茶杯だけんで、いつも泣いてたよ。『女が怖くてに帰れない』『娘にだけは迷惑をかけたくない』って……。あの以来、あのも見かけねえが、元気にやってんのかい?」

喉が張り裂けそうだった。

元気にやっているはずがない。 父は、のあのから、歩もていないのだから。

「……わかりません」

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私はそれだけ絞りすと、々とげて、スナックって逃げした。

。 私は息を切らしながら、自分がパート勤務をしている団くの型スーパーへと戻っていた。

休むわけにはいかなかった。 突然仕事を休めば、植田に「異変」を決定づけてしまう。 今はまだ、平静を装わなければならない。 警察へくにしても、母の計簿と、カセットテープと、靴のだけでは、警察がいてくれるか分からない。

の父親の失踪は、母親による殺でした」

そんな言葉を、証拠もなしに信じる警察がいるだろうか。 父の遺体すら、見つかっていないのだ。

のエプロンに着替え、レジの定位置に入る。

ピッ。 ピッ。

バーコードをスキャンする赤いレーザーが、淡々と商品を読み取っていく。 キャベツ、納豆、パン、牛乳。

常の音。 平で、平凡で、退屈な平の午

買い物客の主婦たちが、レジ袋に商品を詰めながら、折私に声をかけてくる。

「真由美ちゃん、お母さんくなって変ねえ」

「植田会が言ってたわよ。真由美ちゃんがで塞ぎ込んでるから、みんなで見守ってあげなきゃって」

ピッ。

「本当に、いい町内会さんよねえ。お母さんのも、ずっと力になってくれてたし」

ピッ。

吐き気がした。 レジ袋を広げる私の指先が、りで痙攣していた。

このたちは、何もらない。 聖母と崇められた澄子が、どれほどおぞましい狂気を孕んでいたかも。

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