"10年逃亡した父の未開封400万" 第8話
平穏な好々爺の仮面が完全に剥がれ落ちた、獣のような太い声だった。
「箱が空っぽだ! どこへやった!」
部の襖が次々と乱暴にけ放たれる音が響く。 畳を踏み荒らす音。 ゴミ袋が蹴散らされる音。
「どこだ! 靴をせ! あの靴をどこへ隠した!」
奴は最初からっていたのだ。 箱のに、父の靴が入っていたことを。 そして、その靴が消えていることに、これほどまでに激昂している。
私はから401号のベランダへと潜り込んだ。 膝を擦りむき、古いコンクリートのがパジャマのズボンをく汚す。
402号のベランダのサッシが、ガラリと勢いよくけ放たれた。
「真由美!!」
植田がベランダにびしてくる気配。 仕切り板の向こう側で、荒い息遣いが壁越しに伝わってくる。
私は息を殺し、401号の暗いサッシのにを縮めた。
ドカン!
仕切り板が、凄まじい力で蹴られた。 板にピシリと亀裂がる。
「逃げられるとってんのか! あんたのお袋が、どれだけのいであれを隠し通したとってんだ!」
植田のが、板の隙から伸びてこようとした瞬、私はちがり、401号のいていたベランダ窓から空き部のへと転がり込んだ。
埃と臭の残滓が漂う、がらんとした空。 玄関へり、内鍵をして通へとびした。
非常階段を、すりを掴みながら転がるように駆けりる。
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段、段とばしながらりる音が、夜の団の庭に霊した。
背、階の通からを乗りした植田のが、灯のに落ちていた。
「真由美ちゃん! 警察へっても無駄だぞ!」
のに響く声は、もはや狂気を隠そうともしていなかった。
「おの母親が殺しだったって、町に言いふらすことになるだけだぞ!」
団を抜けし、環状沿いの営業のファミリーレストランに駆け込んだのは、午を回った頃だった。
ずぶ濡れの髪から滴るが、ドリンクバーの械のにポタポタと落ちる。 員が怪訝そうな目を向けてきたが、私は千円札を叩きつけるようにしてドリンクバーとフライドポテトを注文し、番奥のボックス席にを潜めた。
体の震えが、いつまでも止まらなかった。
元に置いたリュックのみが、現実のさとして膝にのしかかる。
——おの母親が殺しだったって、町に言いふらすことになるだけだぞ。
植田のあの言葉。 それは、脅しではなかった。 確信に満ちていた。
母が、父を殺した。 そして、植田はその共犯だったのだ。
だから母は、父のを払い続けた。 父がきていることにしなければ、体が発見された瞬に、母に捜査のが及ぶからだ。 だから植田は、あの靴を必で回収しようとした。
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あの靴には、体を埋めた所の「」がこびりついているからだ。
テーブルので、私はリュックからさなマイクロカセットテープを取りした。
爪の先ほどのきさの窓から覗く、細い磁気テープ。 経劣化でテープの端がわずかに波打ち、プラスチックケースにはカビのい斑点が浮いていた。
これを聴かなければならない。 ここに、父の最の声が、あの暴の夜の真実が刻まれている。
だが、どうやって?
スマートフォン全盛の令の今、マイクロカセットを再できる器など、どこに売っているというのか。 量販に駆け込んでも、「数に産終しました」と首を振られるのがオチだ。
ネットで検索をかける。
【マイクロカセットレコーダー 即入】 【ヴィンテージ 葉原 古】
ヒットするのは、オークションサイトの品ばかり。 発送を待っているなどない。 の朝には、植田が私の職であるスーパーに現れるかもしれないのだ。
スクロールを繰り返す指が、画面の隅にあるさな個ブログで止まった。
【都内・即修理対応能 昭・平成レトロ音響器『音羽無線』】
所は、ここからで分ほどの、武線の架にある古い商。 主の気まぐれで古器の販売もっているとかれていた。
は、午。
を見ると、はりになっていたが、空は苦しい鉛に濁っていた。 夜けがづいていた。