"10年逃亡した父の未開封400万" 第6話
普段の母と私の使用量は、に方メートルだ。 方メートル。 通常の倍いが、父が消えたあのの半だけで消費されていた。
何を、洗い流したのか。
呂杯のですら、せいぜい〇・方メートルだ。 方メートルといえば、さなプールを満にできるほどの量だ。 それを、この狭い団の部で、母は何に使ったというのか。
さらに、通帳をめくっていった私の指が、ある点で完全に凍りついた。
母が使っていた、方の普通預通帳。 パートの料が振り込まれ、公共料が引き落とされる、母の活のすべてが記録された通帳だ。
失踪から。 平成。
【サエキ ケンイチ コクミンネンキン】
引き落としの名義。 父の、国民の保険料だった。
毎、欠かさず、万千円余りの額が、母の座から引き落とされていた。 平成も。 平成も。 令に入ってからも。 母が倒れて入院する、今のまで。
度も途切れることなく、母は「逃げたはずの夫」の国民を、自分のパート代から払い続けていたのだ。
失踪した、方になったのを、なぜ妻がも自腹で払い続けるのか?
を払い続けていれば、公には「きている」ことになる。 届もさず、失踪宣告の続きも取らず、きたとして税を納め続ける。
広告
そうすれば——警察も、役所も、誰も「佐伯健の」を疑わない。 ただ「どこかできている民票の残った男」として、処理され続ける。
母は、隠していたのだ。
父がこの世から消えたことを。 公の記録ので、父を「きている逃者」に仕てげるために、自分の血を吐くようなパート代から、毎、を払い続けていたのだ。
「お母さん……あんた、何をしたの……?」
崩れ落ちるように畳に膝をついた。
押し入れの奥、仏壇のあった所に目をやる。 母が、毎朝毎晩をわせていた、さな黒塗りの仏壇。 そこには、祖父母の位牌が置かれていたが、父の写真も位牌もなかった。 「あんなの供養なんてしない」と、母はいつもたく吐き捨てていた。
だが、仏壇のの収納スペースの引きしが、しだけに浮いているのが見えた。
私はうようにして仏壇にづき、その引きしを引いた。 には、古い線と蝋燭の燃えかすが入っているだけだった。
いや、違う。
引きしの奥。枠の継ぎ目に、自然な隙があった。 いベニヤ板が、両面テープでから貼り付けられている。
爪を差し込み、ベニヤ板を剥がした。
パリ、とテープが剥がれる音とともに、奥の空洞から転がりてきたのは——。
カセットテープだった。
のひらに収まる、さなマイクロカセットテープ。 表面には、かつて父が使っていた文字で、震えるような跡のラベルが貼られていた。
広告
【労災事故記録・示談用 健】
そして、そのテープの裏側には、別の跡で、赤のサインペンで殴りきされた文字があった。
母の字だった。
【 絶対に許さない】
ので、何かが音をてて千切れた。
マイクロカセットテープ。 父は事故の、会社の責任を追及するために、弁護士と相談して会話を録音するテープレコーダーを持ち歩いていた。 の痛みに耐えながら、会社側が全管理を怠っていた証拠を集めようと、必にレコーダーを握りしめていた父の姿をいす。
あのレコーダーは、あの、父と緒に消えたはずだった。
それが、なぜ仏壇の奥にあるのか。 なぜ、母の文字で「絶対に許さない」とかれているのか。
聞かなければならない。 ここに、何が入っているのかを。
だが、今の代にマイクロカセットを再できる器など、この部にはない。 スマートフォンで再器を探そうとした、そのだった。
ピロン。
暗ので、スマートフォンの画面がくった。 メッセージアプリの通だった。
送り主は——植田。
【真由美ちゃん、の夕方と言ったが、気が崩れそうだから、今夜のうちに軽トラで寄ることにしたよ。あと分ほどでくから、箱を玄関にしておきなさい】
送信は、分。
あと分。
植田は、私が箱をけたことを確信している。