"10年逃亡した父の未開封400万" 第3話
てきたのは、つ折りにされ、固く丸められた聞の束だった。 付を見る。
平成。 父が失踪するの読売聞の方版。
その聞をゆっくりといたとき、からポロリと、何かがたたきのコンクリートのに転がり落ちた。
カラン、と乾いたい音が静かな玄関に響く。
それは、く輝くさな粒だった。 の台座がついた、パールのピアス。 だが、その真珠の半分は、何か非常にいもので踏み躙られたように々に砕けていた。 そして、の留め具の根元には、赤黒く変した微な染みが、錆のようにこびりついていた。
見覚えがあった。 母の鏡台の引きしに、ずっと切にしまわれていたものだ。 祖母の形見だと母が言っていた、本真珠のピアス。 父が失踪したあの、母は「片方をどこかで落としてしまった」と言って、ひどく落ち込んでいたはずのピアスだった。
なぜ、砕けたそれが、父の靴のに?
指の震えが止まらなくなっていた。 聞の奥には、さらにもうつの「異物」が挟み込まれていた。
方形の、いビニールケース。 郵便局のマークが印字された、緑の片。
私はそれを取りし、いた。
文字が目にび込んでくる。
【定額貯証】 【記号番号:10140−******】 【お預り額:百万円】 【名義:佐伯 健】 【預入:平成】
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息ができなかった。
、百万円。
それは、父がクレーン事故でを失った際、勤務先の建設会社と保険会社から支払われた、正真正銘の補償全額だった。
証の裏面を見る。 払い戻しの印鑑は、どこにも押されていない。 途解約のスタンプも、受領のサインもない。
つかずのまま。 円たりとも、引きされていない。
ので、信じ込まされてきた世界が、音をてて音速で崩壊していった。
父は、を奪って逃げたのではなかったのか? この百万円を持って、女と緒にどこかいへびしたのではなかったのか?
違う。 は、ここにある。 父の靴も、ここにある。
もし父がこの靴を履かずにをたのだとしたら、父はどうやって歩いたというのか? 義のが、靴も履かずに、の暴の夜に階段をりられるはずがない。 階から歩もられるはずがないのだ。
じゃあ、あの夜、何が起きた?
父はどこへった? 母は、何を警察に話した? 町内のたちが見たと言っていた「父のろ姿」は、体誰だったのか?
汗が額から顎へと垂れ落ち、証の表面にポツリと染みを作った。 私はパニックになりながら、に散らばった証拠を呆然と見つめていた。
砕けた真珠。 百万円の証。 のこびりついた全靴。 そして、【燃ごみ】とかれた母の跡。
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そのだった。
カチャリ。
静まり返った玄関ので、属が擦れう微かな音がした。
私の臓がねがった。 音がした所は、玄関ドアの——ドアノブの鍵穴のあたりだ。
息を殺し、けなくなる。
郵便受けの隙から、のたい空気がスーッと入ってくるのが分かった。 には、誰かがっている。
トントン、トントン。
ドアを控えめに、しかし確実にノックする音が響いた。
「真由美ちゃん? にいるかい」
く、しわがれた男の声。 聞き覚えのある声だった。
町内会の、植田だった。
今でになる植田は、この団のヌシのようなで、父が消えた当も町内会として警察の聞き込みに協力し、母のパート先を世話してくれた恩だった。 母がくなってからも、「片付けを伝ってやるからな」「用品は軽トラで運んでやる」と、毎のように話をかけてきていた。
私は声をせなかった。 たたきのに広げられた、父の靴と、百万円の証と、砕けたピアス。 これを見られるわけにはいかないという本能な恐怖が、私の喉を塞いでいた。
返事をしないでいると、ドアノブがガチャガチャとに激しく揺すられた。
「真由美ちゃん、気ついてるよ。いるんだろう?」
声のトーンが、わずかにくなった。 親切な老の仮面の隙から、何かたいものが覗いたような気がした。
「で片付けるのは変だろうとってね。粗ごみの回収業者に頼むとがかかるから、私が引き取ってやろうとって軽トラを回してきたんだよ」