みかん小説
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"10年逃亡した父の未開封400万" 第1話

半ばの団は、どこか湿ったコンクリートの匂いがする。

になる県営宅の階。 エレベーターのない階段を、スーパーのレジ打ちで軋む膝を引きずりながらりきると、踊りの壁には所々、緑のペンキが鱗のように剥がれ落ちていた。

402号。 表札には、今も油性マジックでかれた文字がっすらと残っている。

【佐伯】

、母の澄子がんだ。 享。 胃から肝臓へと転移した癌が見つかったときには、もうの施しようがなかった。

葬儀のは、先だというのにたいっていた。 団の集会所でわれた粗末な通夜には、驚くほどくの民が集まった。 誰もが母の遺で涙をこぼし、私のを握りしめてこう言った。

「真由美ちゃん、お母さんは本当に派なだったよ」

「あんなな父親のせいで、あんたたち親子はどれだけ苦労させられたか……」

「これからは、お母さんの分まで胸を張ってきるんだよ」

。 私のにタコができるほど注ぎ込まれ続けた、判で押したような同と慰めの言葉だった。

母は、この町内において種の「聖母」だった。

、私の父——佐伯健は、突然姿を消した。 当、解体現のクレーン事故での膝からを失い、障害者帳を交付されたばかりだった父は、会社から支払われた労災の補償百万円をそっくり持ち逃げした。

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それだけではない。 隣町のスナックで働いていた女と示しわせ、で夜逃げ同然に蒸発したのだと、母は警察や親戚、町内会の々に泣きながら語った。

残されたのは、だった私と、を失った夫に裏切られたれな母。

私は学を退せざるを得なかった。 学費を払う余裕など円もなく、昼はスーパーのレジ、夜はファミレスの清掃に入り、父が周囲に撒き散らしたであろう「義理の噂」のをすすりながらきてきた。 歳のとき、当付きっていた男性からプロポーズを受けたこともあった。 けれど、彼の両親が興信所を使っての過を調べげ、破談になった。

自由な夫が、を持っての女と逃げたような庭のお嬢さんとは、とても親戚付きいはできません』

そうかれたを義理の母になるはずだったから突きつけられた夜、母は私ので正座し、畳に額をこすりつけて泣いた。

「ごめんね、真由美。全部、あのを選んだ私の罪よ」

「お母さんが、ぬまで働いてあんたに償うから」

母はその言葉通り、居酒の厨で皿洗いのパートを掛け持ちし、毎朝に起きて勤していった。 着るものはいつも所からのもらい物の古着。 べるものはスーパーの半額シールの貼られた見切り品の豆腐と、古漬けのたくあんばかり。

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自分の爪にマニキュアを塗ることすら「罪の妻のすることではない」と拒み、荒れてひび割れたで、ものあいだ祈るようにきていた。

町内の々は、そんな母を尊び、同に父を底れぬ悪党として呪った。

——あのろくでなしの健。 ——自分の体を支えてくれた女を捨てて、を持って若い女と逃げるなんて、のクズだ。

その母が、んだ。

ち退き期限は来末に迫っていた。 この団帯が再発により取り壊され、民層マンションにまれ変わるためだ。 母のを待つ余裕すらなく、私は暮らしたこの暗い2DKの部を空っぽにしなければならなかった。

には、目のものなど何つなかった。

畳の積みにされた、自治体指定の黄燃ごみ袋。 母が几帳面に洗って束ねていた牛乳パックや、何を縛った紐が、部の隅にうずく積まれている。

から作業を続けて、ようやく玄関周りにとりかかったのは、が団の階段の隙から差し込み始めた午過ぎのことだった。

たたきは、靴が並ぶのがやっとの狭さだ。 備え付けられた製の靴箱は、湿気で板の表面が波打っている。

けてみると、母の靴が数入っているだけだった。 パート先で履き潰した、底のすり減った黒いナースシューズが

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