"19年目の妊娠と妻を階段から突き落とした姑" 第5話
「ああ、あいつが自分で用したって言ってたからな。だったら、とっとともらって帰ろうぜ」
妻が救急搬送されてから、まだ夜がけたばかりの朝だった。
命の別条がないのか、怪の程度がどれほどなのかすら確認していないというのに。
2のには、見いの束どころか果物のつすら握られていなかった。
まるで休のショッピングモールにでも遊びに来たかのように、2の取りは気なほど軽やかだった。
すれ違う護師や入院患者たちが、怪訝そうな顔をしてち止まり、2の背を振り返る。
しかし、志は周囲のたい線など全く気にする様子もなかった。
ナースステーションのいカウンターを見つけると、志は迷うことなく真っ直ぐに歩み寄った。
志はカウンターのに乱暴にをつき、横柄な態度で言い放った。
「ですが。妻のミキに会いに来ました」
隣につレナは、反省のなど微も見せず、退屈そうに自分の塗り直したばかりのマニキュアを眺めていた。
カウンターのからちがり、2のにみたのは護師のだった。
は目のに並びつ男と女の姿をじっと見つめ、瞬だけ言葉を失いかけた。
妻が骨折とい部打撲で担ぎ込まれたその翌朝。
ようやく現れた夫が、見らぬ若いを堂々と引き連れて現れたのだ。
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はこの病院で護師として勤務してきたが、これほどまでに常識を欠いたを見たことがなかった。
胸の奥底から、煮えつような静かなりが込みげてくるのをじた。
しかし、は医療従事者としての矜持を保ち、その激を無理やり押し殺した。
表を完全に消しり、極めて事務なたい声を発した。
「さんの、ご主ですね」
志は苛ったように眉を寄せ、くしろと言わんばかりに急かしてきた。
「ああそうだよ。病はどこだ? 何号だ?」
はカウンターので姿勢を正し、線を真っ直ぐに向けてはっきりと告げた。
「申し訳ありませんが、奥様は現、面会をお断りしております」
志の眉が、そうにピクリとねがった。
「は? 面会謝絶ってことか?」
は徹な差しを崩さず、静かに首を横に振った。
「いいえ。奥様ご自の非常にい志で、どなたともお会いにならないと伺っております」
その言葉を聞いた瞬、隣にっていたレナができずにふっと吹きした。
「何それ。奥さん、拗ねてるんじゃないの?」
レナは志の顔を見げて、馬鹿にしたようにを鳴らした。
「私たちが緒に来たのが気に入らなくて、閉じこもってるだけよ。子供みたい」
の鋭い線が、刃物のようにレナを射抜いた。
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妻の命が危険に晒され、の境を彷徨っていたことすららずに、この女は何を笑っているのか。
しかし、はミキとの約束を守るため、無用な言葉をにすることはしなかった。
ただ、ミキから託された最の役割を、淡々と果たすだけだった。
はのポケットから、あのい封筒を静かに取りした。
「ご主、奥様からこちらをお預かりしています」
が差しした封筒を見るなり、志は嫌そうに舌打ちを鳴らした。
そして、のから封筒を乱暴にひったくった。
ビリビリと無造作に封を引きちぎり、から綺麗につ折りにされた用を引きずりす。
用の枠には、見慣れた緑の縁取りが印刷されていた。
役所の窓に置かれている、本物の婚届だった。
妻の欄には、震えのない美しいミキの直の文字で、署名と捺印が完璧にき込まれていた。
志の角が、品に歪んで吊りがった。
「ふん。やっと現実を見たか」
志は用をひらひらと揺らし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「これを受け取れば、もう用は済んだな」
背を向けようとした志に向かって、は静かに声をかけた。
「ご主、封筒のにもう枚、が入っています」
志はち止まり、面倒くさそうに封筒の奥を覗き込んだ。
逆さにして振ると、さく折り畳まれた枚のい便箋が、ハラリとに落ちた。
志は舌打ちをしながらそれを拾いげ、乱暴にいた。