"19年目の妊娠と妻を階段から突き落とした姑" 第2話
された診断は、腕の骨折、そして部のい打撲だった。
全に無数の痣が広がり、命の危すら疑われるほどの傷だった。
それでも、夫の志が病院に駆けつけることは最までなかった。
夜がけた静かな病のベッドので、ミキはゆっくりと目をけた。
泣き叫ぶこともなく、激痛に悶えすることもなく、誰も責めようとはしない。
ミキはただ、界いっぱいに広がる真っな病の井をじっと見つめていた。
コンコンと、控えめなノックの音が静かな部に響いた。
主治医である佐伯誠が、を揺らして病のへと静かに入ってきた。
にしたレントゲン写真とカルテを見つめる佐伯の眉には、いが落ちている。
佐伯はベッドの横までゆっくりと歩み寄り、静かにち止まった。
「ミキさん、しよろしいでしょうか?」
ミキは瞬きもせず、医師の顔を静かに見げた。
佐伯はカルテを指先で軽く押さえ、慎に言葉を選びながらをいた。
「このお怪ですが、単なる転倒では到底説がつきませんね」
ミキは何も言わず、佐伯の真剣な瞳を見つめ返した。
佐伯はレントゲン写真を掲げ、い声で続けた。
「部の打撲の位置、そして何より背に残された自然な圧迫痕です」
それは、を滑らせて自然に階段から転落したの傷跡では断じてなかった。
広告
誰かがい殺にい力で、背から突きばした確な痕跡だった。
佐伯の確信に満ちた言葉に、ミキは表を全く崩さないまま、ゆっくりと頷いた。
全てを察した佐伯は、それ以無理に追及することはしなかった。
ミキはわずかに首を巡らせ、部の入くに控えていた護師のりを呼んだ。
「さん」
はすぐにベッドサイドへと歩み寄り、ミキの顔を覗き込んだ。
ミキは痛む腕をかばいながら、枕元から通のい封筒を静かに差しした。
「これをお預かりいただけますか?」
は差しされたい封筒を、両で受け取った。
封筒のには、すでにミキの直の署名と捺印が済まされた緑の用が入っていた。
役所に提するだけの状態にえられた、婚届だった。
そしてその用には、夫へ宛てたいが添えられていた。
は目を見張り、ミキの青い顔を配そうに見つめた。
「ミキさん、本当にこれでよろしいんですか?」
ミキは血の気のないい唇の両端を、かすかに持ちげて静かに微笑んだ。
「ええ、もう私には分ですから」
ミキはそう呟くと、青空がどこまでも広がる窓のへと線を向けた。
穏やかなが差し込む空を見つめながら、静かに告げる。
「、あのがここへ来たら渡してください」
ミキの澄んだ声には、りのも、しみの震えも切含まれていなかった。
広告
19にわたって積みねられてきた、果てしないと沈黙の終わり。
それは、嵐のの静けさのような、どこまでもたい静寂だった。
なぜミキは取り乱すこともなく、ただ枚の婚届だけを残そうとするのか。
なぜ自分を階段から突き落とした族と、裏切った夫を激しく責めてないのか。
この、夫の志はまだ何も気づいていなかった。
自分が話で「げさだ」と酷に切り捨てた、がの本当のを。
そして、もなく空っぽになる病に、何が残されるのかということを。
午を回り、病のドアが音もなく静かにいた。
入ってきたのは、ミキの実父である森川敬語だった。
警察官として勤めげ、数々の修羅を潜り抜けてきた男だった。
敬語は部にを踏み入れた瞬、病に漂う異様な空気を瞬に読み取った。
ベッドに横たわる、娘の痛々しい姿に目を留める。
腕を厳に固定する太い包帯と、部を痛々しく覆ういガーゼ。
もし普通の親であれば、その惨状を目の当たりにして激しく取り乱したはずだった。
声で泣き叫び、娘を抱きしめて取り乱したかもしれない。
あるいはそので夫や義母へ話をかけ、りに任せて鳴り散らしたはずだった。
しかし、敬語の対応は全く違っていた。
敬語は娘の顔を正面から見据え、くい声で告げた。