"19年目の妊娠と妻を階段から突き落とした姑" 第1話
製の古いすりに、たく湿った雑巾を滑らせる。
ミキは、黙々と階段の拭き掃除を続けていた。
段段、汚れを丁寧に拭き取っていく。
2階へと続く暗い階段には、え切った朝の空気が澱んでいた。
結婚してから19もの、毎朝欠かさず繰り返してきた景だった。
すりの角を拭き終え、息をえようとしたそのだった。
階段のから、ギシギシとを踏み鳴らすい音がづいてきた。
義母のかよが、忌々しそうに眉をひそめてミキを見げている。
かよは歪んだ元から、氷のように酷な声を響かせた。
「あなたがいるから、志は幸なのよ」
ミキはその言葉に、何の反論も返さなかった。
表を切変えず、いつものように静かにをげる。
線を爪先に落としたまま、乾いた唇をいた。
「朝から申し訳ありません」
何千回と繰り返してきた、言い慣れた謝罪の言葉が自然とをついてた。
しかし、かよの苛ちは収まるどころか、さらに激しさを増していった。
かよは乱暴にを踏み鳴らし、段階段を登ってきた。
鬼のような形相でミキの顔を睨みつけ、吐き捨てるように言い放つ。
「本当に、その暗い顔が気に入らないのよ」
次の瞬だった。
ドンと、ミキの背に暴力ない衝撃がった。
かよの両が、ミキの無防備な背を全力で突きばしたのだ。
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「あ」
声にならないい鳴と共に、ミキの体が宙に浮いた。
が虚空を泳ぎ、力に従って体が傾く。
ミキの細い体は、たくい階段を激しく転げ落ちていった。
ゴツン、バキリと、鈍い破砕音が狭い階段に霊する。
腕をく踏み板に打ち付け、部を激しく壁にぶつけながら落していく。
全を容赦なく打ち付けられ、番のたい廊のへ叩きつけられた。
息が完全に止まるほどの、鋭い激痛が全を貫いた。
界が真っに濁り、の奥でキーンというひどい鳴りが響き渡る。
の覚が急速に麻痺していく、ミキは本能のままにした。
激痛で震えるを繰り寄せ、そっと自分のお腹をかばうように抱きしめた。
れゆく識の淵で、ミキはので必に祈り続けた。
お願い。
どうか、この子だけは無事でいて。
だが、その祈りも虚しく、たいのでミキの界は暗転していった。
階段のにつかよは、倒れ伏した嫁の姿を酷な目で見ろしていた。
慌てて駆け寄る様子も、救急を呼ぼうと取り乱す気配も切ない。
かよは舌打ちをつ落とすと、ポケットからゆっくりとスマートフォンを取りした。
画面を慣れたつきで操作し、最の息子である志へと話をかける。
元に端末を当て、呼びし音を平然と待った。
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やがて通話が繋がると、かよは落ち着き払った声でをいた。
「あ、志。ミキが階段から落ちたのよ」
目のでが血を流して倒れているとは到底えない、あまりに平坦な声だった。
スマートフォンのスピーカーから、満げな激しい舌打ちの音が漏れ聞こえる。
志は欠伸交じりの、ひどく面倒くさそうな声で応じた。
「ちょっと転んだだけだろ。本当にドジだな」
志のたい返答を聞き、かよは軽く肩をすくめてみせた。
「本当にそうねえ」
話の向こうから、志の吐き捨てるような命令が響く。
「げさにするなって、あいつに言っておいてくれ」
その、話の奥から嬌声混じりの甘い女性の声が微かに響いてきた。
「誰からの話? 奥さんから?」
志はのレナと緒にいた。
豪奢なホテルのベッドので、シーツにくるまりながら2で楽しそうに笑いっている。
妻がたい自宅ののでの境を彷徨っているその、夫は別の女を抱き、しいを見ていた。
通話が方に切れたも、かよは倒れたミキを放置し続けた。
え切った廊に、ミキの浅い呼吸音だけがさく漏れていた。
それからしばらくのが経過して、ようやく隣の目もあって救急が呼ばれた。
ミキは識が混濁したまま、けたたましいサイレンの音と共に総病院へと緊急搬送された。
集治療での緊急処置が施され、医師たちの緊迫した声がび交う。