"日本一情の深い父の裏の顔" 第2話
つなぎの袖を捲りげた宮田健さんが、リフトの横で目を丸くしてハイエースを見げていた。
「父貴から譲り受けたんです。ただ、が酷い状態で……徹底に清掃して、シートも度全部して洗いたいんです。所と具、貸してもらえませんか」
「所代なんかいらねえよ。おんちの事はってる。……親父さん、とうとうしいに乗ることになったんだってな。テレビで見たよ」
健さんは煙を皿に押し付けると、棚からエアインパクトレンチと内張り剥がしを引っ張りしてきた。
「伝ってやる。シートレールにゴミが噛んでると、ボルト本すのにも骨が折れるからな」
作業は午に始まった。
荷に積みげられていた段ボール箱をろす。 はすべて、菜の顔写真が印刷された未配布のチラシの束だった。
の角が擦り切れ、湿気を含んで波打っている。 その数、ざっと万枚。 父が全国の駅で配り、配りきれずに内に放置されていた残骸だ。
列目のベンチシートを取りし、の隅にてかける。 続いて、列目のシートにかかった。
フロアマットを剥がすと、の鉄板のに無数の砂利と、ひび割れたプラスチックの破片が散らばっていた。
「おいおい、フロアがし歪んでねえか?」
列目側のシートボルトを緩めていた健さんが、レンチのを止めて呟いた。
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「え?」
「いや……シートの台座を留めてるブラケットの根元、これ、度烈な力がかかって曲がった跡があるぞ。事故か、これ?」
「いえ、父からはそんな話、聞いてません。全国をってたから、過積載か何かじゃないですか?」
「そうかい? まあ、万キロってりゃ、ボディの剛性も抜けるか……」
健さんは首を傾げながら、列目の側――菜が座っていたシートのボルトにレンチを当てた。
甲い打撃音がガレージ内に響き、錆びついたボルトが本ずつ抜かれていく。
シートをで抱えげ、のコンクリートのへ運びした。
そのだった。
「……おい、拓。ちょっとこれ見てみろ」
スライドドアの部に屈み込んでいた健さんの声のトーンが、らかに変わっていた。
のを吹き抜けるが、ふっと止まったような気がした。
「何ですか?」
「シートベルトだ」
健さんは、Bピラーの内張りの隙から伸びている、列目側のシートベルトを指先でく引っ張っていた。
だが、ベルトは数ミリも引きされず、属のラチェットが噛みったまま、ガチリと鈍い音をてて完全にロックされていた。
「戻らねえのか?」
「戻らないんじゃない。……これ、プリテンショナーが作してる」
「プリテンショナー……?」
の識が浅い俺は、聞き慣れない単語をオウム返しに呟いた。
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「シートベルトの巻き取り装置のに仕込まれてる薬だよ。が定以の衝撃を受けた瞬、エアバッグと連して薬を爆発させて、ベルトを制に巻き取って乗員を座席に縛り付ける全装置だ」
健さんの指先が、黒いポリエステル製のベルトの表面をなぞる。
「度薬が破裂したら、度と元には戻らない。完全に使い捨てのアセンブリだ。……それに、見ろよ、ここ」
健さんが具箱からスチール製のコンベックスを取りし、ピラーの根元から引きされたベルトのさを測った。
ベルトの織り目が、ある点を境にく毛羽ち、細く引き延ばされていた。
「ポリエステルのベルトが、烈な荷で塑性変形を起こしてる。……おい、拓。これ、正規の規定値より」
健さんは、スケールの目盛りを指先で弾いた。
「4センチ、伸びきってるぞ」
4センチ。
その数字のが、すぐには脳に染み込んでこなかった。
「4センチって……どういうことですか?」
「の体積を持った物体がシートに座っていて、速数キロ、いや、すりゃ百キロいスピードで何かに衝突したにしか、こんな伸び方はしねえってことだ。子供の体ならなおさらだ。……凄まじいGがかかったはずだぞ」
健さんの眉の皺が、く刻まれていく。
「なあ、拓。この、本当に事故ってないのか?」
「事故なんて……していません。だって、菜がいなくなったあの、父さんは警察に……」