"見えない星" 第8話
提された報告の内容、そこに記された勤務態度の問題点、関係者の証言、そして処分を決定した会議の経緯。 課が語るすべてを聞き届けるにつれ、田の胸に渦巻くりは、静かに、しかし沸点を超えて燃えがっていった。
「……の朝半、全関係者を会議に招集しろ」
田はを押し殺した徹な声で命じた。
「総支配、事部、課、そして――その報告を作成し、提した当事者の全員だ。として欠席は許さん」
『は、はい……! 承いたしました……!』
通話を切断した田は、暗い更の窓辺へと歩み寄り、遥かくの夜の並みを見つめた。 、このホテルを買収した際、自らが現に潜り込んでまで見極めようとした組織の病巣が、今まさに目ので膿となって吹きしていた。 能力やではなく、雇用形態という記号だけでを値踏みし、真面目に働く者を嫉妬によって引きずりろす醜悪な構造。 しかし、その沼の底で会った田はる子というの尊さは、田にとって何物にも代えがたい希望のでもあった。 純粋な献、者への無条件のいやり、そして誠実さ。それこそが、何百億円の資本よりも尊い、サービス業の根源な魂そのものではなかったか。
その夜、田は会としての本邸の斎に戻り、枚の級便箋を机のに広げた。
広告
万のペン先を静かにらせ、丁寧な文字を紡いでいく。 自らがこれまで分を隠し続けてきたことへのなる謝罪。 この、はる子から受け取った温かい優しさと学びに対する尽きない謝。 そして、これから彼女が歩むべき、正当なについての提案。 の結びとして、田は確信を込めてこうき記した。
『はる子さん、あなたこそが、このホテルの真の宝です。あなたが流した涙の数だけ、必ずや正当なが当てられるよう、私が全責任を持って筋をえます』
翌朝、午分。 朝がく残るグランドホテルの正面エントランスに、けたたましいタイヤの音とともに、黒塗りの最級センチュリーが台、滑り込むように然とした。 ドアマンが慌てて駆け寄る、台目の部座席のドアがき、の男が静かにへとりった。 仕ての良い漆黒のスリーピーススーツにを包み、の懐計の鎖をベストの隙に覗かせたその物は、昨までの褪せた作業を纏っていた老とは完全に別の姿をしていた。 そのに纏う圧倒な威厳と覇気に、エントランスにいたスタッフたちは息を呑み、直の姿勢のまま縛りに遭ったようにち尽くした。
「あれ……? うそでしょう……?」
フロントのカウンターの奥で朝の引き継ぎをっていた美奈が、ガラス越しにその姿を捉え、持っていたクリップボードを取り落とした。
広告
隣にいた佐藤京子もまた、目を見き、顔面からサーッと血の気が引いていくのをじていた。 自分たちが「寄りの清掃員」「ゴミ拾いの老」とで嘲笑し、見し続けていたあの田が、今、グループの頂点に君臨する最権力者の姿となって、正面玄関の絨毯を踏みしめていたのである。
館内を駆け抜けてきたホテルの総支配が、額に脂汗を滲ませ、転がるように田のへと駆け寄った。そして、腰を直角に折って々とをげた。
「か、会……! 突然のご来訪、より歓迎申しげます……!」
田は総支配の卑屈な態度に目をくれることもなく、え切った音でく言い放った。
「全員、会議に集まっているな?」
「は、はい! 直ちに全員が揃っております!」
「くぞ」
田はコートの裾を翻し、股でエレベーターホールへと向かった。その背には、屈な秘と法務担当役員たちが、無言の威圧を漂わせながら規則正しい音を響かせて追従した。
最階の会議の空気は、極度の緊張によって凍りついていた。 い楕円形のテーブルを囲むようにして、総支配、事部、課、そして顔面を蒼にした佐藤京子と美奈が着席していた。全員が指先を膝ので固く握りしめ、浅い呼吸を繰り返している。