"七年消えた母と五千万の温室" 第17話
の夕方、実の階段踊りで、命保険の受取変更を巡って母と激しい論になり、逆して母を突き落としたこと。 首の骨を折ってかなくなった母を見てパニックになり、以から会社の経営難に乗じて父にづいていた雅美に話をかけたこと。
そして、雅美の指示に従い、母のを峡へ乗り捨てさせ、そのに裏庭に穴を掘り、翌朝番でセメントを流し込んだこと。
方の雅美は、拘置所ので今なお「私は昭彦に脅迫されてを運転しただけの従犯だ」と主張し続けているという。 しかし、検察が暴きした証拠は、彼女の言い逃れを微も許さなかった。
事件の半から、雅美が複数の融関から額の借を抱えていたこと。 母の保険契約を偽造しただけでなく、母の個座から引きされた千万円のうち、千百万円が雅美の借返済と級貴属の購入に消えていたこと。
〇〇の法改正により、をさせた罪についての公訴効は完全に撤廃されている。 という歳は、彼らにとって何の盾にもならなかった。 検察は名を、盗殺、体遺棄、印私文偽造・同使、詐欺の罪で起訴し、極刑を野に入れた厳しい求刑をう方針を固めていた。
町の々の態度は、あまりにも残酷なほどに変した。
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『まさか、あの雅美さんがそんな毒婦だったなんて』 『昭彦さんも酷い男だ、奥さんを殺してそので会社をきくしていたなんて』 『登紀子さんは、本当になだった。私たちはとんでもない誤解をしていた』
かつて母の実にを投げ、私の背に「駆け落ち女の娘」と罵声を浴びせていた々が、今ではを揃えて同の言葉をにする。 その勝な言葉の数々に、りすら湧かなかった。 世とはそういうものだ。 真実がどれほどくとも、彼らにとっては通り過ぎる消費の対象に過ぎない。
だが、私にとっての真実は、取り戻された。 それだけで分だった。
私は、を見ろす台にある営墓にっていた。
しく建された、黒御のさな墓。 そこには「槻」の文字はない。 母のの旧姓である『篠原 登紀子』の名と、その両親——無ので世をった祖父母の名が、並んで刻まれていた。
墓のに、の柔らかな差しが落ちている。 線の煙が、青い空へとまっすぐにちっていった。
私はコートのポケットから、さな属のケースを取りした。
鑑識から返却された、あのイヴ・サンローランのルージュだ。 科捜研のによってと薬品を綺麗に落とされ、磨きげられたの透かし彫りは、かつて母がデパートのショーウィンドウで見つめていたと同じ、気品ある輝きを取り戻していた。
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キャップをすと、僅かに繰りされた先が、鮮やかなコーラルピンクのを覗かせた。
『No.15 Corail Intuitive』。 直な珊瑚。
母が、歳になるはずだった私に選んでくれた、の。
私は鏡も見ずに、そのを自分の唇にそっと引いた。 たいので、微かに甘いマンゴーのりが腔をくすぐった。
「お母さん」
唇をわせ、さく呟く。
「似ってるかな」
が吹き抜け、墓に供えた菊のびらが微かに揺れた。 まるで、母が微笑みながら私の髪を撫でてくれたような気がした。
私はのルージュのキャップをカチリと閉め、墓の台座の横に、そっと寄り添わせるように置いた。
台から見ろすの向こう。 く霞む平線ので、巨なクレーンがアームを伸ばしていた。
峡の旧料所。 嘘の逃劇が演じられ、の悪の始まりとなったあの所は、今まさにによって々に砕かれ、瓦礫となってから撤されようとしていた。
は消えり、面にはの太陽が眩いの粒を散らしている。
私は墓に向かってく礼し、ゆっくりと背を向けた。
振り返ることは、もうない。 私の元には、母が命を賭して遺してくれた、嘘のない未来がどこまでも続いていた。