"七年消えた母と五千万の温室" 第15話
「私もきます。裏庭へ」
警部補は私の目を見て、瞬だけ躊躇したように眉を寄せたが、やがてく頷いた。
「……乗れ。ただし、々の指示には絶対に従ってもらう」
夜。 規制線を示す黄の『KEEP OUT』テープが、がりの槻の敷を幾にも取り囲んでいた。
赤灯を点滅させた捜査両がを埋め尽くし、型の投器が台、裏庭の暗を昼のように照らししている。 の織布スーツにを包んだ鑑識課員たちが、材ケースを抱えて慌ただしく入りしていた。
林の擦れう乾いた音が、夜に乗って響く。 気が肺の奥まで突き刺さるようだった。
「レーダーの準備がうまで、まだはかかります。栞さん、母ので待っていてください」
先ほどの警部補が私にかい缶コーヒーを差ししてきたが、私はそれを受け取ることができなかった。 指先がたく張り、線はただ点——青いライトに照らされた、温のガラス戸に釘付けになっていた。
。 令状がどうだ、順がどうだと、たちはいつも規則を盾にしてを浪費する。 母は、あんなたいので、も息を止めて待っていたのだ。 これ以、分秒たりとも、あの女と男が作った嘘の塊のに放置しておくわけにはいかなかった。
私は警部補の制止の声を背に聞きながら、に温の引き戸へづいた。
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京錠は警察のボルトカッターによってすでに切断され、面に転がっていた。
引き戸をけると、烈な投器のが、央のコンクリート台座を々と浮かびがらせていた。
縦メートル、横メートル、さセンチ。 に濁った、異様な直方体。
私は温の隅、具が放りされていた棚へ歩み寄った。 そこにてかけられていたのは、父が現で使っていた、柄のいキロのスレッジハンマーだった。
両で柄を握りしめる。 ずっしりとした鉄のみが、のひらの皮膚を押し潰す。
「栞さん! 何をしている、触っちゃいかん!」
背から鑑識の捜査員が叫びながら駆け寄ってきた。
だが、それよりく。 私はハンマーをく振りげ、全の筋力を絞りして、そのコンクリートの央へ叩きつけた。
ガァァァァンッ!!
をつんざくような衝撃音が温のガラスを激しく震わせた。 腕全体に痺れるような衝撃がり、のひらの皮が破れて血が滲む。
しかし、かけて完全に化したセメントの表面には、いがび散り、わずかな引っ掻き傷がついただけだった。
「うっ……ああっ!」
歯をいしばり、再びハンマーを持ちげる。
「お母さん……! 今、すから……! 待ってて、お母さんッ!」
度、度。 ガツン、ガツンと鈍い音が響くたびに、私の呼吸は乱れ、涙で界が滲んだ。
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いくら叩いても、さセンチの塊はビクともしない。 無力と悔しさで胸が張り裂けそうになったその、温の入りから、い音が響いてきた。
「……どけ。栞、そこをどいてくれ」
掠れきった、湿った声だった。
振り返ると、そこにっていたのは、錠をされ、両脇をの捜査員に固められた父・昭彦だった。 現ち会いのためにパトカーからろされてきた父の顔は、と涙で汚れ、まるでのように気が抜け落ちていた。
父はふらつく取りで、私のへ歩みた。 そして、だらけの膝をにつき、私の元にを擦り付けた。
「俺がやる……。俺が流したんだ。俺ので……壊さなきゃいけないんだ」
父の伸ばした両は、刻みに痙攣していた。 指先の爪は、昨夜自分でコンクリートを引っ掻いたせいで割れ、赤黒い血がこびりついている。
警部補が無言で捜査員たちをで制した。 誰も、父を止めようとはしなかった。
私は無言のまま、握りしめていたハンマーの柄を、父のへと引き渡した。
父は、震えるで柄を握った。 として、を削り、を建ててきた職の。 そのが今、自分が犯した最も忌まわしい罪のモニュメントを破壊するために持ちげられた。
「うおおおおおおおおっ!!」
獣のような、魂の底からの咆哮だった。
ドォォォォンッ!!
男の全体と、狂気のような力が込められた撃が、台座の継ぎ目にめり込んだ。