"七年消えた母と五千万の温室" 第12話
「雅美さん、本当にご派になられた」 親戚の老が、目を細めて雅美を褒めそねる。 「昭彦をどん底から救いして、会社をここまできくして……。逃げたあの先妻とは、とスッポンだ。槻のにとって、あんたはまさに観音様だよ」
「そんな、勿体ないお言葉です」 雅美は目元をハンカチで押さえ、恥じ入るように微笑んだ。 「私はただ、傷ついた昭彦さんと栞ちゃんを、温かい庭でお守りしたかっただけでございます」
会から、嘆の溜め息と拍が漏れる。 完璧な良妻。完璧な継母。 彼女がかけて築きげてきた、血と嘘で飾られた虚飾の神殿が、今まさに完成のを迎えていた。
私は会の方、音響とプロジェクターの操作卓のにっていた。 黒いフォーマルドレスのポケットので、母のルージュの属のたさを確かめる。
司会者がマイクのにみた。
「皆様、変らくお待たせいたしました。ここで、槻社の最の娘でいらっしゃいます栞様より、お父様への謝を込めたサプライズムービーの映がございます。照をお落としください」
パチ、パチ、と広の豪奢なシャンデリアが順番に消えていく。
広は暗い静寂に包まれた。 方、屏の横に設置された百インチの特スクリーンが、青いを放って起する。
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父が満げに顎を撫で、雅美が期待に満ちた笑みをスクリーンに向けた。
私は操作卓のマイクを握り、スイッチを入れた。
「本は、父・昭彦の還暦と、槻務の周にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
私の声は、スピーカーを通して、広の隅々まで澄み渡った。 震えはなかった。自分でも恐ろしいほど、く、徹な響きを帯びていた。
「この記すべきに、私は過、この町の々が決してることのなかった『槻の真実』を、皆様にお見せしたいといます」
クリック音。
スクリーンに、枚目の画像が投された。
会が、微かにざわめいた。 笑顔の族写真ではない。 に煙るアスファルトと、古びたコンクリートの料所。
黒の荒い粒子。 に浮かびがるタイムスタンプ。 『2019/10/14 01:14』
「……なんだ、これは?」「事の写真か?」 来賓たちがグラスを片に、眉をひそめて画面を見つめる。
私はマウスのホイールを回した。 画像が気に、運転席から差しされた「」へと拡される。
ナトリウムランプのに照らしされた、歪な蝶の形をした、ケロイド状の引きつれた皮膚。 巨スクリーンいっぱいに、その醜悪な傷痕が映しされた。
「これは、の未。私の実母である槻登紀子が、を乗り捨てて逃したとされた、旧峡料所の監カメラ映像です」
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私はマイクを握ったまま、屏のの雅美を真っ直ぐに射抜いた。
「私の母のには、傷つありませんでした。……雅美さん。あなたのその首のコンシーラーのにある傷と、酷く似ていますね」
広の空気が、瞬で凍りついた。
数の線が、スクリーンから斉に雅美の着物の袂へと注がれる。
雅美の顔から、血の気が引いた。 唇がさくき、引きつった笑みを貼り付けようとするが、頬の筋肉がピクピクと痙攣して形を保てない。
「し、栞ちゃん……? 何を言っているの? パソコンの操作を違えているんじゃないかしら……」 雅美がちがり、優雅さを装いながら招きをしようとする。 しかし、その声はずり、微かに裏返っていた。
私は構わず、枚目のスライドを叩きつけた。
『槻務 2号 GPS運記録』
「母のがを通過したのが、午分。そして、父が乗っていた務の軽トラックが、の〇〇メートルの側でアイドリングしていたのが、午分から分までの、空の分」
私は今度、父の顔を見据えた。 父は赤いちゃんちゃんこを着たまま、盃を取り落とし、にこぼれた本酒を見つめて直していた。
「お父さん。あのの夜、あなたは何のためにので待していたのですか? 母のを沿いに乗り捨ててきた雅美さんを、拾って実へ連れ帰るためですね?」
「なっ……な、何を馬鹿なことをッ!?」