"七年消えた母と五千万の温室" 第11話
父は私に背を向け、バインダーを元の棚の隙へと押し込んだ。 その背は丸まり、堵と、未だ消えらない怯えでさく震えていた。
私は確信した。 父は、決定な証拠を見られたとはっていない。 だが、還暦祝いをにして、過の霊がに迫っている恐怖に、確実に蝕まれている。
反撃の準備は、すべてった。
それからの、私は実で「従順で献な娘」を完璧に演じ切った。
雅美が買ってきた級な材で緒にごしらえをし、父のスーツのアイロン掛けを伝い、親戚へ送る案内状の宛名きを笑顔でこなした。
「栞ちゃんがいてくれて、本当によかったわ。昭彦さんもね、昔の辛いことをいさずに済むって、んでいるのよ」
台所で茶を淹れながら、雅美が私の背を優しく撫でる。 その首のブレスレットの革の匂いが、腔を突く。 私は微笑み返し、「雅美さんがお父さんを支えてくれたおかげです」とをげた。
のでは、秒読みの針の音がチクチクと響いていた。
夜、私は自に鍵をかけ、パソコンに向かった。
スマートフォンのデータをパソコンに同期させ、スライド作成ソフトをちげる。 表向きは、親戚や来賓に見せる「槻昭彦 社就任の歩み」。 幼い頃の私を肩する父、棟げ式で職たちと笑う父、リフォームされた現の社。
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だが、私はそのスライドショーの半に、暗号化されたリンクを埋め込んだ。 ワンクリックで、隠しフォルダに保された数枚の画像と音声データが、スクリーンへと切り替わる仕掛けだ。
、峡旧料所の鮮化画像(雅美の蝶の傷痕)。 、号軽トラックのGPS運記録(のでの分の待ログ)。 、母の保険の受取変更請求(雅美の跡による偽造サインと、父の実印)。 、母が消えた翌朝の、速乾セメント袋の社内私用庫台帳。 、温のから掘りした、母のイヴ・サンローランのルージュと、引きちぎられた血染めのプラチナチェーン。
これらを公ので挙に突きつけられた、はどうくか。
原素材の記録がをよぎる。 嘘で塗り固められた共犯関係は、逃げのない鉄証を突きつけられた瞬、最も醜い「責任の擦り付けい」へと崩壊する。
雅美は保のために父を売るだろう。 父は自暴自棄になって雅美を連れにしようとするだろう。
を逃がさない。 警察の密でうやむやにされるに、この町の権力者と親戚の目ので、互いの首を絞めわせるのだ。
私は最に、バックアップを取ったUSBメモリを本作成した。 本は自分のブラジャーの内側へ。 本は役所の信頼できる同僚へ郵送。
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そして最の本は、あらかじめ懇にしていた方聞社の社会部記者宛てのレターパックに封入し、投函を済ませた。
がみ始めていた。 。 審判のが、幕をけた。
正午。 内随の格式を誇る老舗料亭「鳥」の玄関には、黒塗りの級セダンが何台も列をなしていた。
「槻昭彦氏 還暦および株式会社槻務 設周祝賀会」
広の入りには、の毛でかれた派な板が掲げられている。 百畳敷きの広には、卓を超える円卓が並び、集まった来賓は名を超えていた。
の建築課、元選の県議会議員、商会議所の幹部、務の主取引先である建材メーカーの役たち。 さらには、槻の本・分の親戚同。
この町における「槻昭彦」という男の社会位の頂点が、ここにあった。
赤との錦織のちゃんちゃんこを羽織った父は、座の屏のにち、来賓たちから注がれる祝杯を破顔笑でみ干していた。 「いやあ、皆様のおかげです。妻に逃げられたあの頃は、本当にのうかとすらいましたがね……ハハハ!」
その歩斜めろには、藤の加賀友禅にを包んだ雅美が控えていた。 髪を品な夜会巻きに結いげ、背筋を伸ばし、指をついて来賓に々とをげる。
その首には、着物の袂に隠れるように、プラチナの細い計が巻かれていた。革のブレスレットはされ、傷の痕には肌の特殊なコンシーラーが何にも塗り込められている。