"七年消えた母と五千万の温室" 第8話
……登紀子さんが、そうだったようにね」
私の全に、粟つような悪寒がった。 名指しした。 この女は今、確に母の名をにし、そのを予告するかのように私を脅迫している。
「……雅美さん、痛いです」
私がく言うと、雅美はハッとしたように指の力を緩めた。 そして、何事もなかったかのようにハンカチを畳み、ポケットに仕い直した。
「ごめんなさいね。ハサミなら、母の玄関の物置にあるわ。さあ、もうましょう。ここは埃っぽくて、体に毒よ」
雅美は私の背を押すようにして、温のへと促した。 へると、彼女は際よく京錠をかけ、ジャラリと鎖を巻き直した。
「今度こそ、ってくるわね。お昼には美しいお寿司でも買って帰るから」
雅美は軽やかにへ乗り込み、今度こそっていった。
私は自分の首を見つめた。 雅美の指の形そのままに、赤の痣が浮きがり始めていた。
ポケットのの、たい属の触を確かめる。 恐怖は、すでに限界を超えていた。 だがそれ以に、私の胸のでは、凍りつくような徹なりが燃え盛っていた。
もう、戻りはできない。 次は、あのが母を殺してに入れた「血の代償」を暴く番だった。
午。 私は内部の商業エリアにある「槻務」の事務所を訪れていた。
築の階建て雑居ビル。
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階が資材置きと駐、階が事務になっている。
階段をがってアルミのドアをけると、微かに煙と湿った図面の匂いがした。
「こんにちは、鈴さん」
奥の事務デスクでパソコンを打っていた、経理担当の老事務員・鈴さんが顔をげた。 母がきていた頃からくこの会社に勤めている、古参の女性だ。
「あら、栞ちゃん! どうしたの、珍しいわねえ」
「鈴さん、お仕事すみません。実は、来週の父の還暦祝いのことで……」 私はあらかじめ用していた、名目の企画を取りした。 「宴会の席で、サプライズでスライドショーを流そうとっているんです。父が若い頃から、どうやってこの会社を守ってきたか、昔の現の写真や古い資料をスクリーンに映したくて」
鈴さんの顔が、ぱっと綻んだ。
「まあ! なんて親孝なの。社、絶対に泣いちゃうわよ」
「それで、昔のアルバムや報のファイルをし見せていただきたいんです。庫に入ってもいいですか?」
「もちろんよ! 今、鍵をけるわね」 鈴さんは腰をげ、事務所の最奥にあるい製ドアの鍵をけてくれた。 「私、ちょうどこれからと郵便局を回ってこなきゃいけないのよ。くらい留守にするけど、ゆっくり探していていいからね」
「ありがとうございます、助かります」
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鈴さんが鞄を持って事務所をていく音が階に消えるのを待ち、私は庫のドアを内側から静かに閉めた。
窓のない、畳半ほどの狭い部。 壁面のスチールラックには、代別に仕分けられた分いファイルが隙なく並んでいる。
私の狙いは、——〇の記録だ。
私はラックのにしゃがみ込み、『〇度 業務報・納帳』と背表にかれたキングファイルを引っ張りした。
埃を払い、ページをめくる。 、、。
あの、務は型台の接に伴い、すべての現作業を休止していたはずだった。 報の「稼働状況」の欄には、全社員『自宅待』の文字が並んでいる。
だが、私は見逃さなかった。 ファイルの巻末に綴じ込まれた、『社用運記録簿(両GPS連データ)』のページを。
当、務が所していた台の軽トラック。 そのうちの『2号』の項目。
、午〇〇分。 アイドリング始。発点:槻邸(自宅)。
私は、昨夜確認した峡旧料所のデータと照らしわせた。 雅美が母のセダンを運転し、の料所を通過した刻は『午分』。
そして、父が乗っていた2号のGPSが止した点。
『午分:峡料所 〇〇メートル側』
そこで2号は、エンジンをかけたまま、分にわたってしていた。
『午〇分:同点を発、帰途へ』 『午分:槻邸 到着』
胸の鼓が激しくなる。